[動物]イヌ,ゴールデン・レトリーバー,雌,7 歳. [臨床事項]本症例は平成 15 年 8 月に左眼が突出し治癒せず,9 月に左眼摘出手術を受け当教室にて悪性黒色腫と診断された.平成 16 年 8 月から嘔吐・下痢と時に血便を認め体重が 31 kg から 27 kg に減少し,エコー・レントゲン検査により腹腔内腫瘤を認めた.9 月 14 日に腫瘤摘出の為に切除された肝臓内・外側左葉が当教室に搬入された(提出標本はその一部).その後退院するが,10 月 8 日に自宅にて死亡,病理解剖は行われなかった. [剖検所見]手術時の所見としては,肝臓内側左葉のほとんどは,大小の弾力のある硬固な灰白色腫瘤及び暗赤色から赤褐色で一部自壊した柔軟な腫瘤の混在から成る径18×8×6 cm 程の腫瘤で置換されていた(図 1).腫瘤は外側左葉及び方形葉と癒着していた.また,肝臓右葉と大網にも外側左葉と同様の灰白色の小腫瘤を多数認めた.その他の臓器には著変を認めず,レントゲンにおいても胸腔内に腫瘤は無く,肝臓原発の腫瘍が疑われた. [組織所見]腫瘤は,円形の細胞が疎に増殖する部分と紡錘形から星紡状の細胞が増殖する部位から成り,両者の混在・移行が認められた.壊死巣や血管周囲には,偽ロゼット様の構造や管腔様の構造を伴っていた(図 2).核は大小不同,円形から楕円形で陥凹したものや偏在するものもあった他,多数の核分裂像が認められた.細胞質は好酸性で,豊富なものからわずかなものまで様々であった.一部の細胞間に少量の膠原線維と細網線維を認めたが,シート状増殖などの特徴的な所見に乏しかった.特殊染色および免疫染色では,腫瘍細胞はグリメリウス染色で一部陽性,クロモグラニン A(図 3),NSE,ガストリン(図 4)およびビメンチンは瀰漫性に陽性を示した.また一部の円形細胞の細胞質においてアルシアンブルー染色陽性の粘液やオイルレッド O 染色陽性の微小脂肪滴を認めた.その他に検索したメラニン色素,上皮系マーカー,神経系マーカー,血管内皮,胎児性肝蛋白,筋線維や ACTH は陰性であった.戻し電顕観察において細胞質に電子密度の高い顆粒(図 5)や,一部の細胞間にはデスモソームを認めた. [診断]犬の肝臓にみられた神経内分泌癌(Neuroendocrine carcinoma) [考察]本症例では細胞核・質の形状,その増殖形態,あるいは粘液・脂肪産生,ビメンチン陽性像などは神経内分泌癌の所見としては非典型的であったが,ヒトでは,本症例類似の症例の報告がみられる.本症例では,病変は肝臓に主座し,粘液とガストリンの産生および一部に管腔様構造がみられることから,その由来は肝内胆管である可能性が示唆された.(林俊春・長谷川恵子)
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