No.903 フェレットの腎臓腫瘤

鹿児島大学


[動物]フェレット,避妊雌,7 歳齢.
[臨床事項]2〜3 週間前から食欲低下がみられ,背湾姿勢をとるようになり,左腎臓付近にうずら卵大の腫瘤を触知するが,特に治療を施さなかった.その後,削痩,衰弱が重度になり死亡した.
[剖検所見]左腎臓部に 3×2.3×2 cm の腫瘤とそれに隣接する直径 3 cm 大の嚢胞がみられた.腫瘤の割面は灰白色充実性であり,嚢胞の内容物は黄色透明で,左腎臓および副腎は肉眼的に確認することができなかった.肺全域に針先頭大〜5 mm 大の灰白色結節がびまん性にみられ,肝臓にも 2〜3 mm 大の灰白色結節が数個,脾臓および大網付近には 1.5×1.2×0.7 cm の灰白色腫瘤がみられた.縦隔リンパ節,肝門リンパ節,腰リンパ節の腫大がみられた.その他の臓器には特に著変は認められず,また脳脊髄の検索は行わなかった.
[組織所見]左腎臓部の腫瘤は不規則な小葉状を呈し,結合織による被包が不十分であった.腫瘍細胞は細胞境界が不明瞭で,充実性あるいは管腔形成性に増殖し,管腔内には好酸性分泌物や好中球および壊死退廃物がみられた(図 1).核は大型の円形から多角形で染色質に富み,核仁が著しく明瞭で,細胞質を豊富に有しているが,空胞や脂質,さらに粘液の産生も認められなかった.著しく腫大した核仁と多量の染色質よりなる円形から極度に多形で甚だしく巨大な核を有する巨細胞性の腫瘍細胞もびまん性に多数認められ,また多核の腫瘍細胞も散在していた.分裂像や異常分裂像も多く認められた.直径 3 cm 大の嚢胞は厚い線維性結合織で囲まれており,腫瘍細胞が多層性にさらに内腔に乳頭状に増殖していた.免疫染色では Cytokeratin(CAM 5.2)にのみ腫瘍細胞は陽性で(図 2),Vimentin,Desmin,Cytokeratin(AE 1/3),Cytokeratin(34βE12),CEA,Chromogranin A,SP-A,CA125,Calretinin には陰性であった.また,肺および肝臓の結節性病変,脾臓・大網付近の腫瘤,全身リンパ節の病変はいずれも左腎臓部腫瘤の組織像と同様であった.その他,膵臓のインスリノーマ,右副腎皮質の過形成が認められた.
[診断]腎腺癌(Renal adenocarcinoma)
[考察]フェレットに多発する副腎腫瘍とは,管腔形成性,腫瘍細胞の著しい多形性と脂質の非産生性,Vimentin や Chromogranin A 陰性等から鑑別した.本検体にみられた巨細胞性腫瘍細胞は,ヒトの腎癌(腎腺癌)の多形細胞型に認められる形態と類似していると思われた.(三好宣彰)