[動物]ネコ,雑種,雄,1
歳,体重 3.6 Kg.
[臨床事項]3 週間前より数日おきに旋回しながら走り,その後,脱力,痙攣,失禁や流涎をみるとのことで上診.初診時,振戦と運動失調があった.頭部 MRI 検査を行ったところ,大脳灰白質,間脳,中脳,延髄,脊髄灰白質が T2 強調像,FLAIR 像で高信号を呈し,T1 強調像では低信号に観察され,脳全体が腫脹して脳溝が不鮮明であった.なお,大脳白質,小脳,脊髄白質は T2,FLAIR,T1 強調像ともに正常であった.小脳を除いた脳全域において病変が左右対称性に認められたことと発症年齢から,何らかの代謝性疾患または蓄積病が疑われた.以後,フェノバルビタールの経口投与により維持,通院していたが,約 30 病日目に,30 分以上痙攣が続くということで再来院した.その際に強直性痙攣と頻脈(250/分以上)が認められたため,ジアゼパム,フェノバルビタールと Ca チャンネルブロッカーを投与したところ,痙攣は治まり,脈も 200/分前後で安定した.翌朝,喀血して呼吸停止したため,直ちに人工呼吸を行い,生命維持していたが,飼い主の意向により安楽死の処置がとられた.
なお,本例は拾われた猫で,本例以外の個体についての情報は得られなかった.
[剖検所見]大脳は水腫性に腫脹し,透明感があり,質軟弱で形態保持が困難であった.割面では,灰白質と白質の境界は不明瞭で,均質感があった.その他,高度の肺水腫と出血,気管内血餅,軽度の心嚢水腫,胃糜爛,副腎皮質の菲薄化が認められた.
[組織所見]大脳,小脳,脊髄の灰白質を中心として高度な空胞変性が広汎かつび漫性にみられた(図 1, 2).空胞形成は,主として神経細胞周囲,神経網および血管周囲にみられた(図 3, 4).空胞は,アルシアンブルー,PAS 反応および脂肪染色にいずれも陰性で,また,プリオン蛋白に対する免疫染色は陰性であった.目立ったグリア細胞の増殖,痂皮形成,細胞内空胞,軸索の変性などはみられなかった.その他,肝細胞,近位尿細管,十二指腸外縦走筋にも空胞形成がみられた.
[診断]大脳灰白質広汎性海綿状変性
[考察]大脳に海綿状変性を示す疾患として,プリオン病,遺伝性(特発性)変性性疾患,代謝性疾患(蓄積病),中毒などが挙げられるが,これらに特徴的な所見は得られなかった.ネコの中枢神経系に海綿状変性をきたす疾患としてはこれまで散発的な報告があり,本例は Vidal E ら(J Comp Pathol. 2004 Jul.131:98-103)の報告と病変の分布および組織学的特徴がおおよそ一致していた.発生年齢から先天性の疾患の疑いがあったが,原因の確定には至らなかった.(宇根有美)
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