[動物]イヌ,ビーグル,去勢雄,10 歳 10 ヶ月.
[臨床事項] 2 ヶ月前に口臭と上顎歯肉腫脹のため抜歯した.その後,次第に顔面が変形してきたとの事で本学動物医療センターに来院.左側からの鼻汁および血液を混じた流涎が認められた.MRI 検査において,左上顎歯肉に腫瘤が認められ,さらに腫瘤の一部は鼻腔および左眼窩まで及び,左眼球を変位させていた.左上顎歯肉腫瘤,硬口蓋腫瘤および左上顎第三切歯脇腫瘤が切除材料として当研究室に送付された.提出標本には左上顎歯肉腫瘤を用いた.
[肉眼所見]左上顎歯肉腫瘤は 2.6 × 1.2 × 1.0 cm.表面,割面共に灰白色〜褐色.
[組織所見]腫瘍細胞は上皮様に密に増殖する領域(図 1)と,細胞が個々に遊離し,びまん性に増殖する領域(図 2)が認められた.後者には印環様細胞がしばしばみられた(図 2, 矢印).核分裂像は多く,核小体は明瞭で複数有するものもあり,細胞質は弱好酸性を示し,広いものから狭いものまで様々であった.また広範な腫瘍細胞の壊死を認めた.免疫組織化学的には,腫瘍細胞はビメンチンに強陽性を示し(図 3),Melan A 抗体に対しては一部の腫瘍細胞が陽性を示した(図 4).その他,S-100 蛋白(図 5),GFAP および NSE に対する抗体にも陽性を示した.サイトケラチンは陰性であった.電顕的には,腫瘍細胞の細胞質に径約 10 nm の豊富な中間径フィラメントを認め,核が偏在するものもみられた(図 6).その他,ミトコンドリアおよび粗面小胞体が散在していた.明らかなメラノゾームは確認できなかった.
[診断]悪性黒色腫 Malignant melanoma
[考察]悪性黒色腫の腫瘍細胞は上皮様から紡錘形肉腫様など多様な細胞形態を示すことが知られている.本例は印環様細胞を混じた上皮様細胞からなり,しかもメラニン色素は認められず,一般的な悪性黒色腫の形態とは異なっていた.しかし,免疫染色結果において,ビメンチンおよび神経系マーカーに陽性であった他に,特に犬における悪性黒色腫に対して特異性が高いことが知られている Melan A にも陽性を示したことから,上記の診断とした.また本例の腫瘍細胞の細胞質は豊富な中間径フィラメントを有しており,signet-ring cell melanoma および rhabdoid melanoma の形態と類似していた.(豊島祐次郎)
[参考文献] 1) Ramos-Vara J. A. et al. 2000. Vet. Pathol. 37: 597-608
2) Banerjee S S & Harris M 2000. Histopathology 36: 387-402
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