No.907 ブタの胸腺

東京大学


[動物]ブタ,(父 Large Yorkshire × Dutch Landrace 母 Landrace × Large Yorkshire), 雌,42 日齢.
[臨床事項] T-2 トキシン投与実験に用いられた対照個体(DMSO 経口投与).実験期間中,臨床状態に変化はみられなかった.
[剖検所見]胸腺の大きさは正常,固定後割面は黄白色充実性(図 1).その他の臓器に変化は認められなかった.
[組織所見]皮質が著しく萎縮し(図 2),髄質に多核巨細胞,類上皮細胞およびリンパ球から構成される肉芽腫性病変が広範に認められた(図 3).PAS 染色では一部の多核巨細胞,類上皮細胞が陽性(図 4).Gram染色,Gomori のメセナミン銀染色およびチールネルゼン染色は陰性.免疫組織化学的検索では vimentin (図 5), desmin 陽性.Lysozyme には弱陽性.電顕検索では,多核巨細胞は細胞膜嵌合により周囲の類上皮細胞と接していた(図 6 Bar = 3 μm).多核巨細胞の細胞質内には,多くの被覆小胞および顆粒が認められた(図 6-Inset Bar = 1 μm).豚サーコウイルス 2 型についての免疫組織化学的検索および PCR 法による検索,抗酸菌に対する PCR 法による検索(16S rDNA, hsp65)のいずれも,陰性であった.
[参考所見]同様の組織病変は,提出症例の腸間膜リンパ節,脾臓および腎臓においても認められ,同一実験の処置群(n = 3),対照群(n = 1)の他個体でも観察された.
[診断]豚における胸腺皮質の萎縮を伴う肉芽腫性病変
[考察]本例は組織学的特徴および病変の分布から,感染症の可能性が高いと考えられた.ブタで多発性肉芽腫性病変を示す疾患として,抗酸菌症,ブルセラ病,ムコール症,離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)が報告されている.しかしながら,これらの疾患に特徴的な病原体,封入体は認められなかった.また,ヒトのサルコイドーシスも多発性肉芽腫性病変を示すが,この疾患に特徴的な星状体,シャウマン小体もみられなかった.PMWS では封入体が形成されない症例が報告されていること,抗酸菌症でも明瞭な菌体が確認されないものもあることから,PCR 法を実施したがいずれも陰性であった.よって,原因不明の肉芽腫性病変であると考えた.(馬場也須子)
[参考文献]Baba, Y. et al. Vet. Pathol. in press. (2006).