[動物]トリ,カルガモ,雄,約 5 ヶ月齢.
[臨床事項]某動物園で 5 月に 13 羽のカルガモの雛が保護され,このうち 3 羽が 6〜7 月に各々肉芽腫性肺炎,肉芽腫性肺炎・胸椎炎,脳の膿瘍と内眼球炎により死亡した.アスペルギルス感染症を疑い残りのカモにイトリゾールを投与した.提出例は投薬したカモの 1 羽で,7 月初旬に軽度の歩行異常を示し,以後動作が緩慢になった.8 月下旬起立不能となったが,数日で回復した.10 月再度起立不能に陥り死亡した.
[肉眼所見]左右大脳半球頭頂部概ね1/2を占める壊死が形成されていた.これに接する前頭骨表面は顆粒状に肥厚していた.剖検時には他の臓器に異常は認められなかったが,切り出しの際左右肺各々に径 3 mm に至る膿瘍を 1 個ずつ認めた.
[組織所見]大脳の頭頂部は広範にわたり壊死に陥っていた(図 1).壊死巣周囲の脳実質,髄膜にはマクロファージ,リンパ球と少数の偽好酸球が浸潤していた(図 2).壊死巣辺縁には好塩基性で,分岐,隔壁を持ち径が均一な真菌菌糸が存在し,壊死巣内には多核巨細胞を伴う肉芽腫性結節と染色性に乏しい太めの菌糸が認められた(図 3).また,菌糸を伴う血栓および血管炎が散見された.グロコット染色では壊死巣辺縁の菌糸は径が均一で隔壁を持つのに対し,壊死巣中央の菌糸は径が不均一で壁が薄く隔壁が不明瞭であった(図 4,bar = 10 μm).免疫染色では抗アスペルギルス抗体で壊死巣辺縁および中央部の菌糸両者が陽性となったのに対し(図 5,bar = 10 μm),抗ムコール抗体陽性の菌糸は検出されなかった.肺の膿瘍には真菌は認められなかった.
[診断]カルガモに見られた血管炎,病巣内の真菌菌糸 (Aspergillus flavus) を伴う肉芽腫性髄膜脳炎
[考察]本例は Aspergillus spp. の日和見感染と考えられるが,脳炎を原発巣とする例が 2 羽続いたため,1) 抗真菌薬長期投与による耐性菌の出現,2) 重複感染,3) Aspergillus spp. の性状について検討した.イトリゾールに対する最小発育阻止濃度試験では病巣から分離された A. flavus は用量依存性の感性を持ち通常範囲内であった.PCRでは接合菌 Absidia corymbifera に特異的なバンドが検出されたが,免疫染色の成績から病巣内の菌糸のほとんどは A. flavus で,慢性炎症に伴い菌糸の径が太くなったと考えられた.以上の成績から,本例は A. fumigatus よりも呼吸器への病原性が弱い A. flavus が幼雛期に感染し血行性に脳に至り脳炎の再燃を繰り返したものと考えられた.(落合謙爾)
[参考文献] 1) Richard, J.L. et al. Avian. Dis.. 25: 53-67 (1981). 2) Larone, D.H. Medical Important Fungi, 2nd ed. Elsevier. (1987).
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