[動物]リクガメ(Geochelone sp.),雄,2 歳未満の幼体,体重 160 g.2003 年 12 月から翌年 3 月にかけて 4 回産卵・孵化した 48 匹のうちの 1 匹.
[臨床事項] 2005 年 6 月頃から同一ケ−ジ内の複数の子カメに食欲不振〜廃絶などの症状が現れた.緑色絮状物を含む尿酸を排泄,脱水,沈鬱,虚脱と徐々に進行し,4 匹が衰弱死した.11 月,同様の症状を示す 4 匹を予後不良として安楽死させ,病理学的に検索した.提出標本はそのうちの 1 匹.
[剖検所見]著しく体重減少,重度の脱水,口粘膜蒼白.膵臓は萎縮性で,大腸など周囲組織と癒着.肝臓は褐色調で,小葉様構造明瞭.
[組織所見]膵外分泌細胞核内に好酸性胞状,分葉状あるいは好塩基性放射状など様々な封入体が観察され,腺房壊死やチモーゲン顆粒の減少がみられた(図 1, 2).肝臓では一部に肝細胞の腫大があり,肝細胞核内に膵臓と同様の封入体が観察され,肝細胞の壊死も見られた.胆管上皮内にも核内封入体がみられ,好塩基性で花冠状を呈していた(図 3).また,脈管周囲に少数のリンパ球と時に偽好酸球も浸潤していた.十二指腸は杯細胞の減少,核の腫大を伴う封入体形成があり,上皮内へリンパ球やマクロファージが浸潤していた.この他,消化管全域上皮,尿細管上皮,肺胞上皮,気管支上皮,脈絡膜上皮,脾臓,膀胱移行上皮でコクシジウムを確認した.電顕検索では,好酸性胞状の封入体と一致するトロフォゾイト(図 4, bar = 7 μm)や好塩基性封入体と一致するメロントおよび残体と 3 × 0.8 μm の三日月状のメロゾイトも見られた(図 5).さらに,マクロガメートサイト(図 6)やミクロガメートサイト(図 7)も見られた.
[診断]リクガメの核内コクシジウム症(肝細胞変性と壊死,膵外分泌細胞の変性と壊死,十二指腸腸上皮変性)
[考察]核内で生活環を営むコクシジウムは稀であるが,今までに Eimeria, Isospora, Cyclospora で 11 種類報告されている.動物種としては爬虫類,ガチョウ,牛,モグラ,魚類で観察され,特に爬虫類での検出例が多い.爬虫類の核内コクシジウム感染は主としてトカゲで,非病原性あるいは低病原性である.しかしながら,ホウシャガメで核内コクシジウム症の報告があり,6 例中 2 例の発生で腎炎,膵炎,肝炎,腸炎がみられた.これまで,リクガメの核内コクシジウム症の集団発生は 2 例の報告があるだけで,生活環および病原性については不明な点が多く,今後,種の同定を含めさらなる検索が必要である.(宇根有美)
[参考文献] 1) Garner, MM et al. Vet. Pathol. 43: 311-320 (2006).
2) Jacobson, ER et al. J. Zoo Wildl. Med. 25: 95-102 (1994).
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