[動物]ブタ,雑種,雌,75 日齢.
[臨床事項]母豚 140 頭を飼養する一貫経営の農場で,2005 年 1 月以降,腹単位で 40 日齢の子豚に下痢や発育不良が散発した.3 月に当該農場の衰弱した 75 日齢子豚の病性鑑定を実施した.稟告では神経症状は確認されなかった.
[剖検所見]肺では,左前葉前・後部の基部,右葉の中葉・後葉基部付近,右前葉の一部は境界明瞭に暗赤色を呈していた.割面では赤色肝変化がみられた.両肺後葉の割面では斑状の暗赤色部が点在していた.その他の臓器には著変は認められなかった.脳,扁桃および肺からのウイルス分離は陰性だった.扁桃乳剤の PCR 検査で豚テシオウイルス(PTV)の特異遺伝子を検出した.豚コレラに対する FA は陰性だった.肺から Pasteurella multocida と Streptococcus suis が分離された.他の病原細菌の分離は陰性だった.農場内の他の豚からは E. coli O149 が分離された.
[組織所見]脳幹部から小脳,脊髄にかけて,灰白質を中心に重度の非化膿性髄膜脳脊髄炎が観察された(図 1:橋,HE).非化膿性炎病変に加え,中脳から延髄にかけて,左右対称性の強い軟化巣が認められた(図 2:橋,HE).また,脳幹部の白質を中心に,好酸性,PAS 陽性硝子滴が血管周囲性に観察された(図 3a :橋,HE; 図 3b :橋,PAS).大脳半球には病変はほとんど認められなかった.小脳,中脳の病変部から抗 PTV 抗原が免疫組織化学的に検出された.
[診断]重度軟化巣と血管周囲性硝子滴を伴った,豚テシオウイルスの関与が疑われた非化膿性髄膜脳脊髄炎
[考察]今回病変部から免疫組織化学的に PTV 抗原が検出された.ウイルス分離陰性のため確定診断には至らなかったものの,大脳半球にほとんど病変を形成しないその特徴的な病変分布から,今回の非化膿性炎の病原微生物として PTV が強く疑われた.今回,非化膿性炎に加え,血管周囲に特徴的な硝子滴が観察された.脳幹部に認められた左右対称性の軟化巣も脳脊髄血管症による一連の病態として報告がある.血管傷害もみられたことから,疫学的背景も加味し,今回の症例では脳脊髄血管症も伴っていたと考えられた.今回,非常に強い病変が形成されていたが,脳脊髄血管症による軟化病変に PTV による脳脊髄炎病変が加わることによって,病変が増悪されていたのではないかと考えられた.(山田学)
[参考文献] 1) Yamada, M., et. al., Vet Rec. 155: 304-306 (2004). 2) Nakamura, K., et. al., Vet Pathol. 19:140-149 (1982).
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