[動物]イヌ,ミニチュア・ダックスフンド,雄,2 ヶ月,体重 1.7 kg.
[臨床事項]本症例は,平成 14 年 8 月 30 日に心雑音を主訴に山口大学家畜病院に来院,エコー,レントゲン検査により心奇形,肺水腫,腹水貯留を認めた. 9 月 8 日に容態が悪化し,10 日より同家畜病院にて利尿剤による治療を行った. 9 月 11 日,造影レントゲン検査により動脈管の開存を確認したが,検査後まもなく徐脈になり, 9 月 12 日 0 時に死亡,同日 17 時に剖検を行った.
[肉眼所見]肺は表面・割面ともに,左前葉前部の辺縁部,右前葉の辺縁部,左後葉が白桃色で,その他の部位は暗赤色であった.橙赤色不透明漿液状胸水を約 3 mL,橙赤色不透明漿液状腹水を約 30 mL 入れていた.右心房は中等度〜重度に膨隆,右心壁は中等度に肥厚,左心房内腔は軽度に拡張しており,約 3 mL の赤色透明漿液状心嚢水の貯留を認めた.肺動脈〜大動脈弓間に直径 0.5 cm 程,長さ 1.5 cm 程の動脈管の開存を認め,肺動脈基部は重度に拡張していた.その他全身臓器のうっ血が見られた.
[組織所見]肺では,中・小の肺動脈の内皮細胞の肥大,増生,変性および剥離,中膜の肥厚,変性,内皮下および外膜の浮腫を認めた.特に小動脈では,内膜の線維性肥厚や,中膜における fibrinoid necrosis や少数の好中球の浸潤と核破砕を伴う壊死性血管炎(図 1)が見られ,一部に線維素血栓の形成も認められた.その他中膜平滑筋の粘液変性(図 2)や,一部の小動脈では,拡張した血管腔に内皮細胞や平滑筋細胞が増殖して網目様構造をなす,いわゆる plexiform lesion(PL) (図 3 ;矢印は血管腔)および glomeruloid lesion (図 1 ;矢印は血管腔)を認めた. PL には,血栓の再疎通を示唆する像の他に,一般に未熟な内皮細胞と平滑筋が増殖しスリット状の血管腔を形成している像(図 4 ;矢印は血管腔), α-smooth muscle actin で淡染する,内皮細胞で内張りされた平滑筋細胞が,血管内腔や外膜側に向かって増殖している像(図 5)を認めた.また,血管壁が重度に拡張・菲薄化し,静脈様になった血管が,いくつも集合して見られるいわゆる dilatation lesion (図 6)を認めた.
[診断]動脈管開存症の幼若犬の肺にみられた Plexogenic pulmonary arteriopathy
[考察]本症例の肺に見られた一連の血管の変化は,ヒトの Heath-Edwards の分類(1958年)による primary pulmonary hypertension で見られる肺血管の組織学的変化,すなわち plexogenic pulmonary arteriopathy に非常に類似していた.特徴的な変化である plexiform lesion の形成は, @ 線維素血栓の再疎通,あるいはより積極的な A 血管内皮細胞と平滑筋細胞の増殖による可能性があることが示唆された.(佐川由佳・林 俊春)
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