No.917 イヌの脊髄

大阪府立大学


[動物]イヌ,ビションフリーゼ,雌,6 歳.
[臨床事項]突然の歩行不能を主訴に近医を来院.第 6 病日に本学動物臨床センターに来院した時には,両後肢の反射が消失していた.レントゲン検査にて第 6・7 腰椎が癒着していた.その後,症状は徐々に悪化し,第 8 病日には前肢の伸張,チック様の不随意運動も認められ,第 9 病日に呼吸困難に陥り死亡した.
[剖検所見]腰椎(L6 - L7)の椎孔の腹側部は灰白色に変色し,粗造化していた.腰髄の割面は,全体に黄褐色に変色していた.
[組織所見]腰椎の粗造部では,突出した髄核組織,石灰沈着およびマクロファージ浸潤が見られ,椎間板ヘルニアと考えられた.脊髄の主病変は,灰白質に主座する軟化,空洞化(図 1)であり,多数の泡沫状マクロファージ浸潤(図 2)を伴っていた.軟化巣内や髄膜の血管では,しばしば血管壁のフィブリノイド変性(図 3)が認められ,リンタングステン酸ヘマトキシリンで鮮青色に染色された.白質変性も認められ,大小の空胞形成,軸索の腫大がしばしば観察された.病変は胸髄,頚髄まで広範囲に進展しており,同様の灰白質軟化,出血,硝子血栓形成が認められた.
[診断]血管のフィブリノイド変性を伴う上行性脊髄軟化症
[考察]本症の脊髄軟化性病変は,ヘルニア部より上位部に認められ,上行性脊髄軟化症と診断した.この病態は髄核の急激な噴出に続発し,上行性(時に下行性)の進行性病変を特徴とする.病変が第 5,6 頚髄レベルに上行し横隔神経に及ぶと,呼吸不全を来たし,動物は死亡することが多い.この病態の病理発生は不明であるが,血管障害に基づく出血・梗塞が重要と考えられており,本症に認められた血管のフィブリノイド変性もこれを支持する所見と考えられた.(桑村 充)