No.919 ブタの嚢胞肝

酪農学園大学


[動物]ブタ,ランドレース系雑種,約 6 ヶ月齢.
[臨床事項]正常豚として屠殺解体された.
[剖検所見]内臓検査にて肝臓に漿液性嚢胞が多数観察され(図 1),この割面では大小不同の嚢胞は肝臓実質にも観察された(図 1 挿入図).
[組織所見]観察された嚢胞は主に集合胆管周囲に局在し(図 2),門脈域から連続した膠原線維に覆われていた(図 3 〔挿入図は矢印で指す部位の拡大〕).この嚢胞は孤在性あるいは房状に連続していたが,胆管への開口は認められなかった.嚢胞を内張りする細胞は円柱から扁平で,稀に杯細胞も観察された(図 4).嚢胞周囲の肝小葉は変形,小型化し,わずかな肝細胞が島状に取り残される部位も観察された.その他の所見としてリンパ濾胞形成を伴う慢性非化膿性胆管炎ならびに胆管周囲炎が観察されたが,胆汁のうっ滞は観察されなかった.粘液染色では嚢胞を内張りする円柱上皮細胞は中性ムチンを,杯細胞にはスルフォムチンを含む粘液が認められた.グリメリウス染色では嚢胞を構成する上皮層内に陽性顆粒を持つ細胞も稀に観察された.デスミン抗体を用いた免疫染色では,嚢胞周囲に散在性に紡錘形の陽性細胞が認められた.
[診断]胆管周囲嚢胞
[考察]ヒトで報告されている胆管周囲嚢胞は胆管周囲腺由来の漿液性嚢胞で,胆管由来の嚢胞が肝小葉内で認められるのに対して,胆管周囲嚢胞は門脈域の小葉間結合組織内で認められる.ブタでは胆管周囲腺は集合胆管固有層に存在し,中性ムチンを主に含む上皮細胞や神経内分泌細胞から構成され,胆管周囲腺周囲にはデスミン抗体に陽性を示す紡錘形細胞が存在する.しかし,ブタでは胆管周囲嚢胞の報告はない. 本症例の嚢胞は門脈域の結合組織に覆われており,嚢胞を構成する上皮層内に神経内分泌細胞が観察されたこと,デスミン抗体を用いた免疫染色の結果をあわせると,正常な胆管周囲腺に類似した特徴を持つことが示唆された.これらのことから,胆管周囲嚢胞と診断した.(小嶺美紗)
[参考文献]
1) Nakanuma, Y. et al. Virchows. Arch. A. 404: 341-50 (1984).
2) Nakanuma, Y. J. Gastroenterol. Hepatol. 16: 1081-1083 (2001).
3) Terada, T. et al. Virchows Arch. 430: 37-40 (1997).