No.921 イヌの肝臓

岩手大学


[動物]イヌ,シーズー,雄,15 歳齢.
[臨床事項]腹部膨満とのことで,某動物病に来院.超音波検査にて肝臓腫瘍が疑われ,飼い主の希望により試験的開腹術を実施.肝臓全体が嚢胞状になっており,部分摘出術を実施し閉腹した.術後,数日で死亡したが,剖検は行われなかった.ホルマリン固定生検材料のみの送付を受けたが,固定後の所見としては,径 1 cmにいたる多数の嚢胞が肝臓被膜面に密発していた(図 1).
[組織所見]大小様々な大きさの嚢胞状構造部の内腔には,血液あるいは漿液が充満していた(図 2:HE 染色).肝細胞索が残存する領域では,腫大した洞内皮細胞が内張しており,肝細胞は顆粒状となり凝固壊死に向かっていた(図 3:HE 染色).部位によっては類洞が拡張し,富脈斑様に拡張していた.嚢胞は一層の内皮細胞で内張されており,肝細胞索に接しており,間質の結合組織はほとんど認められなかった.小葉間結合組織のリンパ管および血管は高度に拡張し,結合組織は増生していた(図 4:マ ッソントリクローム染色).また,血管内皮細胞やリンパ管内皮細胞,嚢胞壁の一部の内張する細胞は,第[因子関連抗原に対し陽性あった.
[診断]血管肉腫 hemangiosarcoma
[考察]肉眼所見および増殖性の変化が乏しいことから「犬肝臓における多発性嚢胞性結節(紫斑病様)」を提唱したが,腫瘍性の病変として捉えるべきであり,「血管肉腫」という診断になった.肝細胞索が残存し壊死に向かっている領域の腫大した内皮細胞は第[因子関連抗原に対し陰性であり,腫瘍細胞というよりも洞内皮細胞ではないかと思われた.しかし,完全に嚢胞化した内張する内皮細胞は,第[因子関連抗原に対し陽性を示すことから血管系の腫瘍として捉えても良いのではないかと考えられた.血液およびリンパ液の流れを考慮すると,正常構築を保ちながら徐々に嚢胞状組織が形成されていったのではないかと推察された.(細野志野・御領政信)