[動物]ラット,Crj:CD (SD) IGS,雌,67 週齢.
[臨床事項]本症例は発がん性試験の背景データ集積のため,溶媒を経口投与した群の 1 例である.42 週齢から左眼球の突出が,45 週齢から眼球内の混濁が認められた.60 週齢には頻呼吸が発現し,67 週齢時に死亡した.
[剖検所見]腫瘤は左眼窩内から頭蓋底部にかけて強い浸潤性を示しながら増殖していた.眼窩骨や頭蓋前方底部付近の骨組織は破壊され,左眼球は腫瘤内に埋没し不明であった.腫瘤割面は白色から灰白色で,壊死巣が多発し,腫瘤と周囲組織との境界は不明瞭であった(図 1).肺には直径 2 ‐ 5 mm 大の白色から灰白色の腫瘤が散発していた.その他に削痩,脾臓と胸腺の萎縮が認められた.
[組織所見]紡錘形の腫瘍細胞が束状に増殖する部位(図 2),円形の腫瘍細胞がシート状に増殖する部位,不整型の腫瘍細胞が時折 bizarre な核を有し不規則に増殖する部位など腫瘍細胞の形態および増殖態度は多様性に富んでいた.核分裂像も散見された.正常部位との境界は不明瞭であったが,頭蓋腔内に侵入した腫瘍組織の脳実質内への浸潤は認められなかった.腫瘍内には壊死巣が散在していた.免疫染色で腫瘍細胞は Anti-melanoma (clone PNL2)抗体(Dako Japan Inc.)に陽性を示した(図 3).陽性シグナルは細胞質内にドット状に観察された(図 3 inset).電顕観察では細胞間結合構造(デスモゾーム)や Interdigitation は認められず,細胞質内には絮状物を容れる単位膜の空胞構造物が多数観察された(図 4 矢印).
[診断]アルビノラットの頭部における悪性無色素性黒色腫(髄膜由来を疑う)と肺の転移巣(Malignant amelanotic melanoma in the head (speculated to be derived from meninx) and pulmonary metastatic lesions of an albino rat)
[考察]Anti-melanoma (clone PNL2)抗体を用いた免疫染色を行った結果,アルビノラットの非腫瘍性および腫瘍性メラノサイトに高い特異性を示した.すなわち,電顕でメラノソームが確認された無色素性メラノーマに陽性を示し,正常皮膚,眼球のメラニン細胞にも陽性を示した.一方,アルビノラットの他の間葉系腫瘍,神経系腫瘍には陰性であった.よって本症例を無色素性メラノーマと診断した.アルビノラットにおける頭蓋内の無色素性メラノーマの報告は見られない.(黒滝哲郎)
[参考文献] 1)Mohr, U. p. 33. In: International classification of rodent tumours. Part I: The Rat. 7. Central Nervous System; Heart; Eye; Mesothelium. International Agency for Research on Cancer. Lyon, France. (1994).
2)Rochaix, P. et al., Mod. Pathol., 16: 481-490 (2003).
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