[動物]イヌ,チワワ,避妊雌,11 歳.
[臨床事項]膀胱腫瘍を主訴に来院.8 ヶ月前より左側頚部腫瘤の存在を認めていたが,急速な増大や自壊の傾向がなく,臨床症状も認められなかったために放置され,膀胱全摘手術と同時に左側頚部腫瘤も摘出された.甲状腺腫瘍を疑い FT4,c -TSH,T4 の内分泌検査を実施したが,異常は認められなかった.
[剖検所見]腫瘤の大きさは 40 × 31 × 26 mm,被膜を有し柔軟.辺縁不整な卵形で,表面に結節状隆起が認められた.表面の血管分布が著しく,赤色斑が散在.割面は灰白色充実性.総頚動脈や迷走交感神経幹を巻き込み周囲組織に固着していた.
[組織所見]厚い結合組織で被包された腫瘤中に,淡明・円形の腫瘍細胞が充実性に増殖(図 1),またシート状また重層化した索状構造を形成.出血,ヘモジデリン沈着が散在.腫瘍の細胞境界は不明瞭,細胞質は豊富で淡明なものと好塩基性のものが混在.核は円形,大小不同,異型巨大核が散在.分裂像は 2 個/HPF.渡辺鍍銀法により細網線維が腫瘍塊を胞巣状に取り囲む Zellballen 様構造が示された(図 2).細胞質内顆粒はグリメリウス法による好銀染色で強陽性(図 3).免疫組織化学的検索では Cytokeratin 8/18,Vimentin,Thyroglobulin,Calcitonin,Neurofilaments に陰性.Chromogranin A (図 4),NSE,Synaptophysin で陽性.S-100 では支持細胞のみ陽性.電子顕微鏡学的検索では細胞質内に多数の高電子密度の分泌顆粒が認められ(図 5,Bar = 1 μm),これらは限界膜を有する 150-200 nm の Core より成り,限界膜と Core の間に狭い Halo を形成していた(図 6,Bar = 125 nm).細胞間に時折,デスモソーム結合が存在.
[診断]傍神経節腫(Paraganglioma)
[考察]副腎以外の傍神経節由来の腫瘍をパラガングリオーマと総称する.動物ではその発生部位により頚動脈小体腫瘍や大動脈体腫瘍が知られており,大部分の細胞は非クロム親和性と考えられている.今回の症例は,位置的に頚動脈小体腫瘍と考えられたが,迷走神経遠位神経節由来もありえるため,上記の診断とした.サイトケラチン 8,18,広域性の CK,Thyroglobulin や Calcitonin が陰性であったことより甲状腺腫瘍を否定した.また電子顕微鏡学的検索により示された限界膜を有する 150-200 nm の Core はエピネフリン顆粒と考えられたが,その機能活性と臨床所見との関連性は確認できなかった.(渋谷 久)
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