[動物]イヌ,ゴールデンリトリバー,雄,1996 年 4 月 1 日生(9 歳 9 ヶ月).
[臨床事項] 2005 年 7 月 17 日に飼い主が左下顎腫瘤(2 × 3 cm)を,さらに 7 日後某動物病院にて診察時に著明に腫大した精巣(10 × 10 cm)を発見.下顎腫瘤の穿刺細胞診では円形細胞が主としてみられたため他の検査機関で炎症が疑われた.血液検査に著変なし.翌日,左下顎腫瘤摘出及び精巣全切除後当教室に検査依頼. 13 日後に再診.前日より食欲低下.さらに下顎術部腫脹.右目が違和感あり.やや眼圧上昇,瞳孔軽度散大,対光反射,痛みなし.眼下に膿瘍または腫瘤(不明確)あるいは緑内障合併と診断. 18 日後食欲不振,起立不能のため排
尿なし.翌日身体を触れると痛みあり. 8 月 7 日痛みが続き呼吸不全により死亡.剖検はされなかった.
[組織所見]精巣腫瘤はクロマチンに富む類円形核とごくわずかな細胞質を有する小円形から類円形細胞で,これらの細胞群(小型の横紋筋芽腫瘍細胞塊)と好酸性細胞質を有する大型の腫瘍細胞塊からなり分隔する線維性結合織がみられた(図 1a と b、 HE × 40 と × 400).結合織に近い細胞群は吊し柿状配列を呈する.他の部位で両細胞が衝突するように混在しているが,分隔する線維性結合織がない増殖部位では細胞接着が弱いのが明瞭である.線維性結合織が富む部位に異型を示す巨細胞が観察される.小葉毎に壊死部がみられ,白血球の浸潤が若干みられた.また,下顎の組織(頚部)では細胞質の乏しい小型の細胞が多く,分隔する線維性結合織が頻繁にみられた.部位によっては精巣と同様,異型巨細胞がみられた.大型の細胞はほとんど見られなかった.腫瘍細胞はビメンチン,HHF35(Actin)(図 2) ,ミオグロビン(図 3)には陽性を示し,デスミン,CD3,サイトケラチン,HLA-DR,Lysozyme,BLAα-1-anti-trypsin には陰性を示した.
[診断]横紋筋肉腫
[考察]精巣原発で,下顎部腫瘤に転移したものと考えられるが,剖検されなかったので詳細は不明である.精巣に横紋筋肉腫が見られることは少なく,原発もわずかで特に動物での報告はない.(山口良二)
[参考文献]Kumar, P.V.
et al. Pure testicular rhabdomyosarcoma. Br. J. Urol. 59(3): 282 (1987).
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