[動物]ネコ,雑種,雌,1 歳 4 ヶ月齢.
[臨床事項]8 ヶ月齢時,歩様蹌踉を主訴に近医を来院.原因は不明のまま数院を転院した.13 ヶ月齢時,震えがひどいとのことで近医を再来院.16 ヶ月齢時,夜間に突然痙攣を示し,救急病院に上診.その時の血液検査では,アンモニア 578 mg/dL,GPT 507 U/L,ALP 575 U/L と高値を示した.下血,吐血が見られ,同日死亡した.
[剖検所見]消化管は内容物が血様で,肺は全体にうっ血水腫が強く,気管・気管支内には泡沫液が貯留していた.肝および腎では重度のうっ血が認められた.
[組織所見]肝細胞はびまん性に腫大し,細胞質に弱好酸性のコアーを容れる空胞が形成されていた(図 1).エポン包埋トルイジンブルー染色切片では,細胞質内に均質な蓄積物が確認され,HEで見られたコアー周囲のハローは人工産物と考えられた(図 2).蓄積物はパラフィン切片を用いた Oil red O 染色で陽性,PAS 染色弱陽性,シュモール反応弱陽性,UV にて自家蛍光を示し,セロイド・リポフスチン類似の物質沈着と考えられた.電顕的には,沈着物に一致して Curviliner bodies, Lammelar profiles と呼ばれる膜状構造が認められた(図 3 Bar = 500 nm).肝のクッパー細胞内には,黄褐色物質の蓄積が認められ,Oil red O(パラフィン切片),PAS,シュモール染色に陽性を示した.大脳では,大脳皮質の粗鬆化,グリオーシスが見られ,神経細胞,グリア細胞,マクロファージ内に褐色色素〜弱好塩基性物質の蓄積が観察された.小脳ではプルキンエ細胞,顆粒細胞の脱落が顕著で,大脳で認められたのと同様の蓄積物が,神経細胞,マクロファージ内に認められた.神経組織の沈着物質も,肝の特殊染色と同様の染色性を示し,セロイド・リポフスチン沈着と考えられた.
[診断]肝細胞のセロイド・リポフスチン沈着 (全身性セロイド・リポフスチン沈着症)
[考察]8 ヶ月齢時より臨床的に見られた歩行異常および振戦は,中枢神経系における異常物質の蓄積によるものと考えられ,蓄積物の性状からセロイド・リポフスチン沈着症と診断された.肝細胞における蓄積物は,クッパー細胞内の蓄積物と比較して,PAS およびシュモール染色の反応性が弱いものの,基本的な性状は類似しており,電顕所見と合わせて全身性セロイド・リポフスチン沈着症と関連する変化と考えられた.(桑村 充)
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