[動物]イヌ,ミニチュアダックス,雌,3 ヶ月齢.
[臨床事項]本症例はブリーダーで飼育されていた愛玩犬である.生後 2 ヶ月頃発咳を示し,元気および食欲がなくなったため皮下補液等を実施したが,呼吸速迫,食欲廃絶を示して発症から約 1 ヶ月後に死亡した.本例の死亡時期に前後して,同居の他の仔犬に死亡例が散見された.
[剖検所見]肛門周囲に下痢便が付着し,鼻汁および眼脂が中等量認められた.左側鼠径部に腸管の脱出(鼠径ヘルニア)が認められた.空回腸粘膜面に種々の程度の充出血が認められた.盲腸には赤色粘液状の内容が中等量認められた.肺は全葉にわたって赤色,暗赤色および黄白色のモザイク状を示した.膵臓には著変は認められなかった.
[組織所見]膵臓では巣状の変性ないし壊死が散見され,腺房構造の消失や,腺房上皮細胞におけるチモーゲン顆粒の消失が認められた(図 1).これらの変性・壊死巣では,腺房上皮細胞の細胞質内や核内に大型の好酸性封入体が多数観察され(図 2),犬ジステンパーウイルス(CDV)に対する免疫染色で陽性を示した(図 3).また,一部の壊死巣では腺房上皮細胞の核内に両染性の full 型あるいはハローを有する封入体が観察され(図 4),アデノウイルス(CAV)に対する免疫染色で陽性を示した(図 5).なお,これら 2 種類の封入体は一部の膵管上皮細胞においても観察された.炎症細胞の浸潤はほとんど認められなかった.
[参考所見]胃,腎臓,肺,脾臓で CDV 封入体が,胃,腎臓,肺,肝臓,腸管粘膜上皮で CAV 封入体がそれぞれ観察された.
[診断] CDV 封入体および CAV 封入体を伴う膵壊死(CDV および CAV 感染症)
[考察]犬の膵臓でこれらのウイルスの混合感染が明らかにされた報告例はほとんどない.極めて大型の CDV 封入体の形成も本症例の特徴の一つであるが,このような大型の封入体が形成された原因は明らかでない.様々な臓器において CDV および CAV の封入体がみられたことから,全身性に両ウイルスの混合感染があったと考えられた.なお,当初「膵炎」と診断していたが,研修会において炎症細胞の浸潤を伴わない膵炎に対する疑問が提起されたことを考慮し,最終的に「膵壊死」と診断した.また,膵島の大きさが全体的に小型であるとの意見もあったが,再検討の結果,それは年齢あるいは個体差であると考えられた.(久保正仁・柳井徳磨)
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