No.938 カニクイザルの腎臓

三菱安科研


[動物]カニクイザル(Macaca fascicularis),雄,5 歳,ベトナム産.
[臨床事項]一般状態,血液生化学的検査に異常はなかった.尿検査は実施しなかった.
[肉眼所見]腎臓を含む全身諸臓器・組織に著変は認められなかった.
[組織所見]著しく腫大した糸球体が散在性に認められた(図 1).腫大した糸球体は全糸球体の約 20%(いわゆる巣状)で,分節性もしくは全節性に分葉化が認められた.病変部位では細胞密度が増加しており,毛細血管腔は狭小化もしくは不明瞭となっていた(図 2).PAS および PAM 染色標本により,メサンギウム細胞の増殖およびメサンギウム基質の増加が確認された.また毛細血管壁では部分的に基底膜の二重化が認められた(図 3).電子顕微鏡学的検査では,メサンギウム細胞および基質が著しく増加し(図 4),一部は血管腔側に向かって突出し(図 5),血管腔が狭小化していた.PAS および PAM 染色で認められた基底膜の二重化(double contour)の部分ではメサンギウム細胞が基底膜側へと間入した mesangial interposition が認められた(図 6).
[診断]巣状メサンギウム性毛細血管性糸球体腎炎
[考察]今回の症例では,メサンギウム細胞が分節性もしくは全節性に基質を伴って増殖し,とくに血管側への増殖のため,血管腔の狭小化および血管壁の二重化を引き起こしたと考えられた.電顕検索では,特徴的な mesangial interposition の像が認められた.このような糸球体病変はヒトのメサンギウム性毛細血管性糸球体腎炎(別名:膜性増殖性糸球体腎炎)の所見と一致する.カニクイザルでは,比較的若いころから糸球体腎炎に遭遇することがあり,たいていは巣状病変で,び漫性のものは少ない.ヒトのメサンギウム性毛細血管性糸球体腎炎は一般にび漫性の病変を示すものであるが,今回の症例は若齢のため,巣状病変として観察されたものと考えられる.(佐藤順子)