No.940 イヌの脳(小脳,延髄,脊髄)

宮崎大学


[動物]イヌ,パピヨン,雌,6 ヶ月齢.
[臨床事項]生後 2 ヶ月齢時に起立困難と頭部振戦を主訴に某動物病院を受診.神経学的検査では四肢の伸展傾向,姿勢反応低下および威嚇反射消失が認められた.頭部 MRI 検査では T2 強調像で視床に高信号病変が認められた.6 カ月齢時には意識レベル低下,後肢の完全な伸展,膝蓋腱反射消失,舌麻痺が認められた.頭部 MRI 検査では T2 強調像で視床の病変に加え,脳溝の明瞭化と側脳室拡大(図 1),視床間橋,小脳および脳幹の萎縮が認められた.また剖検後の肉眼観察でも小脳萎縮が認められた(図 2).
[組織所見]中枢神経系の広範囲に軸索変性(スフェロイド形成)およびグリア細胞増殖を特徴とした病変を認め,特に脊髄背角(図 3),延髄楔状束核,薄束核,内側毛帯,オリーブ核および三叉神経脊髄路で高頻度に観察された.スフェロイドは均質,顆粒状,同心円状等,様々な性状を示し(図 4),これらの部位では反応性星状膠細胞や小膠細胞の増殖が中程度に観察された.小脳皮質では中程度から重度のプルキンエ細胞の脱落と軽度の顆粒細胞の脱落が認められた(図 5).免疫組織学的にスフェロイドは calretinin,parvalbmin,synaptophysin,neurofilament,ubiquitin,および Hsp70 に陽性を示した.
[診断]感覚神経路に主座したグリア細胞の増殖を伴う軸索変性(神経軸索ジストロフィー Neuroaxonal dystrophy)
[考察]本疾患は若齢時に発症する原因不明の変性性疾患であり,イヌではロットワイラー種で多く報告され,同犬種における研究より常染色体劣性遺伝疾患と考えられている.臨床的には急速に進行する小脳症状などの神経異常を特徴とし,MRI などの画像診断では特に小脳萎縮が認められる.病理組織学的にはスフェロイド形成を伴う軸索変性が中枢神経広範囲で観察され,特に後索‐毛帯路,三叉神経脊髄路,オリーブ小脳路などの感覚神経路および関連領域に顕著である.類似疾患の小脳皮質 abiotrophy とは小脳皮質細胞の脱落程度と軸索変性の有無が主な鑑別点と考えられる.詳細については,J. Vet. Med. Sci. 69 (10) に掲載予定の論文に記載した.(二瓶和美)
[参考文献]
1) Chrisman CL et al. J Am Vet Med Assoc. 184: 464-467 (1984).
2) Franklin RJM. et al. J Small Anim Pract. 36: 441-444 (1995).
3) Siso S et al. Acta Neuropathol (Berl). 102: 501-504 (2001).