[動物]ウシ,ホルスタイン,雌,3 歳 8 ヶ月.
[臨床事項]搾乳牛約 80 頭飼養の酪農家で,2006 年 4 月頃から食欲不振あるいは突然起立不能を呈する症例が 4 頭続いた.4 頭目のみが病性鑑定に供された.本症例は,臨床的に突然起立不能を呈し,犬座姿勢,沈鬱状態で刺激に対する反応が減弱した.前肢を伸張する動作がよく見られ,左後肢下腿部表面に痙攣が確認された.発症から 5 日後に剖検が実施された.
[剖検所見]大脳の軽度充血.大腿部の痙攣が認められた部位の暗赤色化.
[組織所見]HE 染色標本では,多くの神経細胞体に好塩基性細胞質内封入体が観察された(図 1).封入体はひとつの神経細胞体に 1 ないし数個みられ,円形ないしカリフラワー状で,時折中央にコアが認められた.封入体は間脳背側でより顕著に確認された.神経網に,同様の染色性を示し,均質あるいは同心円状の構造を呈する,より小さな小体が多数観察された(図 2).これらの封入体(小体)は PAS 陽性,ジアスターゼ消化抵抗性であった(図 4).ベストカルミン染色,ヨウ素反応,アルシアンブルー染色,コロイド鉄染色に陽性反応を呈した.ニッスル染色ではほとんどの小体が陰性を呈していたが,青紫色に染まる小体が散見された(図 3).ボディアン染色,LFB 染色,抗 GFAP 抗体を用いた免疫組織化学的検査により,ほとんどの小体が神経細胞体および樹状突起内に認められると考えられた.電子顕微鏡観察では,封入体は限界膜に包囲されず,径約 10 nm のフィラメントが塊状あるいは放射状に観察された(図 5).
[診断]ラフォラ小体の蓄積がみられた牛の間脳
[考察]封入体はポリグルコサン小体の特徴とほとんど一致した.ポリグルコサン小体は,神経細胞体あるいは樹状突起にみられるラフォラ小体と軸索およびアストロサイト内にみられる類デンプン小体に分類される.今回の症例は,ほとんどが神経細胞体あるいは樹状突起に存在することからラフォラ小体であると診断された.(木村久美子)
[参考文献] 1) Arai N. pp.50-67, 177. In Neuropathological Index, Igakushoin (2005). 2) Kreeger JM. et al.Cornell Vet. 81: 215-221 (1991).
3) Simmons MM. et al.J.Comp.Path. 110: 389-401 (1994).
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