No.944 イヌの眼球

鳥取大学


[動物]イヌ, トイプードル,避妊済み雌,11 歳 6 ヵ月齢.
[臨床事項]11 歳 4 ヵ月齢時,3 日前からの突然の失明を主訴に来院.左右の眼球ともに対光反射,威嚇瞬き反射,追跡運動消失.網膜誘発活動電位記録において異常が認められなかった(b/a:1.58 (R) ,1.88 (L))ことから中枢の病変を疑う.その 1 ヶ月後から心雑音が聴取され(心雑音レベルU/Y),さらにその 1 ヵ月後,重度の僧帽弁閉鎖不全(心雑音レベルX/Y)を伴う腱索の断裂に起因すると思われる急性心不全により突然死した.
[剖検所見]心臓に左心室壁の肥厚および僧帽弁の短縮およびねじれを伴う部分的な肥厚が見られた.中枢神経系および眼球には著変は認められなかった.
[組織所見]眼球において,視神経の重度肉芽腫性炎症(図 1),重度瀰漫性グリオーシス,網膜神経細胞の著明な脱落が認められた.大脳(次の各レベルの冠状断:前頭葉,乳頭体,尾状核および後頭葉),中脳,橋,小脳,延髄,脊髄(C3,L4)などの中枢神経系全域にわたり(図 2),視神経に認められる病変と同質の肉芽腫性病巣(図 3),重度瀰漫性グリオーシス,まれに神経細胞体の壊死,グリア結節が認められた.肉芽腫性病巣は主にリンパ球,形質細胞,組織球様細胞(図 4,レクチン RCA-1 陽性),マクロファージから構成され,白質好性,囲管性に認められた(図 3,図 4).心臓,肺において心不全を示唆する所見が認められた.
[診断]肉芽腫性視神経炎および網膜神経細胞の脱落(イヌの肉芽腫性髄膜脳脊髄炎「眼型」)
[考察]イヌの肉芽腫性髄膜脳脊髄炎は,臨床症状および病変の広がりのパターンなどの特徴所見から,臨床的に「播種型」,「限局型」および「眼型」に分類されている.いずれの型も進行に伴い中枢全体に病変が広がる.本例は失明発症後,3 ヶ月という短期間に急性心不全で死亡したため,視神経に初期病変が保持された「眼型」の症例として出題した.(前原朋美・島田章則)