No.945 ウマの足根関節(飛節)内腫瘤

 JRA総研


[動物]ウマ,サラブレッド,雄,6 歳.放牧休養(7 ヵ月)後,JRA トレーニングセンターに再入厩.
[臨床事項]入厩時より,左寛跛行と関連する左足根関節(飛節)の腫脹を認めた.初診時の X 線検査では,表面不整の X 線不透過な増生物が飛節領域に,関節鏡検査では,足根下腿関節内を遊走する鳩卵大の関節鼠が目視で確認された.
[肉眼所見]表面白色滑沢な硬結性腫瘤を足根下腿関節内に一つ,中心遠位関節内に一つ認めた.前者(図 1)を提出標本としたが,これは下方で有茎性に関節包と連絡していた.その割面では,主たる構成組織は海綿骨様で,局所で血管を有する結合組織および軟骨様組織を内含し,これら腫瘤内部の軟組織は,表層数ミリを覆う結合組織および軟骨様組織と連続していた.なお,後者の腫瘤も基本的に前者と同様であった.
[組織所見]肉眼的に海綿骨様に認められた硬組織は,硝子軟骨を混じる骨梁を主体とした海綿骨だった.硝子軟骨はトルイジン青染色(pH 7.0)で一律に異染性を示したが(図 2),ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色では弱から強好塩基性と変化に富んでいた(図 3a.b).硝子軟骨細胞は中程度の異形性を示し,軟骨円柱様構造(図 3a),軟骨小嚢内に複数の軟骨細胞が密集した hypercellar cartilage lobules(図 4)が認められ,chondroblastic な変化が見られた.一方,腫瘤表層は 2 から 3 層の滑膜細胞層,その下方で増生する線維芽細胞様細胞および膠原線維,さらにその下方で発達する線維軟骨層により構成されていた.線維軟骨基質はメタクロマジーを示さなかった.また,軟骨組織では,破骨細胞による浸食,骨芽細胞による骨添加が観察された.
[診断]馬の足根下腿関節に形成された孤在性滑膜性骨軟骨腫症
[考察]形態学的特徴から,前記の病名で診断した.その形成機序は,関節包あるいはその隣接結合組織を構成する間葉系細胞の軟骨化生に始まり,何らかの刺激により軟骨細胞の増生に転機した後,軟骨内骨化による骨梁形成と盛んな骨リモデリングが骨軟骨性腫瘤をつくったと推察された.おそらく,腫瘤表層の線維軟骨および結合組織の発達には,関節炎の進行が関与している.滑膜性骨軟骨腫症は,関節包滑膜と連続性がある骨軟骨性腫瘤で,滑膜細胞の腫瘍ではない.一関節に多結節性に発生する傾向があるが,人では孤在性のものも認められている.人 2002 年新 WHO 腫瘍分類では,新たに良性腫瘍の範疇に加えられが,動物では分類が整理されていない.(桑野睦敏)
[参考文献]
1) Hamir, A. N. Vet. Rec., 137, 293-294 (1995).
2) Mayhew, I. G. J. Am. Vet. Med. Assoc., 170, 195-201 (1977).