No.947 イヌの臀部皮下腫瘤 

日本獣医生命科学大学


[動物]イヌ,シーズー,雄,11 歳.
[臨床事項]右臀部腫瘤を主訴に来院.腫瘤は約 2 ヶ月間で 2 × 2 × 1 cm の大きさに成長した.血液学および血液生化学的検査において異常所見は認められなかった.また超音波検査において腹腔内に腫瘤または結節様物は認められなかった.外科的切除された腫瘤のホルマリン固定材料が当教室に送付された.なお,術創部は完全治癒し,再発は認められない.
[肉眼所見]腫瘤は硬結感を呈し,周囲との固着性はみられなかった.割面は灰白色〜赤褐色を呈し,一部で出血が認められた.
[組織所見]腫瘤は皮下織に限局し,線維性被膜に覆われた,概ね均一な小型腫瘍細胞の小集塊状増殖からなっていた(図 1,bar = 50 μm).腫瘍細胞は類円形の淡明な核を有し,細胞質は乏しく好酸性で,個々の細胞境界は不明瞭であった.核分裂像は高頻度に認められた(図 1 矢印).また間質は乏しく,少量の細網線維が腫瘍巣を不規則に分画していた.免疫組織化学的には,腫瘍細胞は Vimentin(図 2,bar = 50 μm),NSE,Synaptophysin(図 3,bar = 50 μm),S-100 に陽性を示し,Cytokeratin (AE1 / AE3),Desmin,αSMA,Neurofilament,GFAP,Chromogranin A,Melan A,CD3 および CD20 に陰性を示した.電顕的には,隣接した腫瘍細胞間に細胞質突起(CP)の重積がみられた.突起内には少数の微小管が存在し(図 4,bar = 500 μm),神経分泌顆粒もまれに認められた(図 4 矢印および図 4 挿入図,bar = 250 μm).
[診断]末梢神経芽腫(Peripheral neuroblastoma)
[考察]腫瘍細胞は神経系マーカーに陽性を示し,電顕的には neuropile に類似する特徴が示されたことから,神経芽腫と診断した.イヌにおける神経芽腫は,副腎,交感神経節および大脳で報告されているが,本症例は皮下にのみ認められたことから,皮下原発の神経芽腫と考えられる.(道下正貴)