[動物]アマゾンツノガエル Ceratophrys cornuta,幼体(繁殖個体),体重 18 g,頭胴長 4.6 cm.
[臨床事項]11 種類の水棲および陸棲のカエル,35 匹を飼育する個人宅で,11 月になって,突然 1 週間に 1 匹程度の頻度でカエルが死に始め,その数は約 2 ヶ月で 13 匹に達した.カエルは単独の飼育容器で,数箇所の部屋に分散して飼育されていた.常態では佇んでいるカエルが,不安げに動き回ったり,暴れたり,活力低下,吐き戻しなどを呈して1〜3 日で死亡した.このうち,11 番目と 12 番目に死亡したアマゾンツノガエル(飼育歴 4 ヶ月)とマルメタピオカガエル Lepidobatrachus laevis (飼育歴 1 年)の 2 匹を病性鑑定した.提出標本はそのうちのアマゾンツノガエルで,このカエルは死の 2〜3 日前まで活力,食欲ともに良好であったが,頻繁に暴れるようになり,少量の血様便を排泄して斃死した.なお,この飼育者は,カエルが斃死する約 1 年半前より様々なカエルの飼育を始めているが,このような連続する不審死を経験していない.
[剖検所見]アマゾンツノガエルでは,肉眼的に異常を見つけることができなかった.マルメタピオカガエルの体表は粘液で覆われており,諸所に充血があったが,皮膚潰瘍や指端の欠損などの病変は観察されなかった.なお,2 匹のカエルの皮膚の病理組織学的所見はほぼ同様であった.
[組織所見]腹側皮膚には,角化層の不規則の肥厚,表皮の軽度の過形成があり表皮層内には裂隙形成が観察された(図 1).肥厚した角化層内には,無数の遊走子を含む遊走子嚢,空になった遊走子嚢や有隔葉状体が観察され,表皮との境界部分に未熟なツボカビが好塩基性の球状構造物として認められた(図 2,3).また,角化層直下の上皮細胞は変性し好酸性を呈していた(図 2).皮膚の走査電顕像では皮膚表面にドーム状に隆起する放出管を有する遊走子嚢が観察された(図 4).PCR 検査でカエルツボカビ特異のバンドを検出した.
[診断]カエルツボカビ Batrachochytrium dendrobatidis による皮膚症(ツボカビ症 Chytridiomycosis)
[考察]ツボカビ症は,両生類の新興病原体であるカエルツボカビによる致死性の皮膚感染症で,世界的規模で起きている両生類の減少,絶滅に関係する感染症として認識されている.アジアでは今まで報告がなかったことから,本例がアジア初の事例となった.診断は病理検査と PCR 法によって行われ,組織学的には,角化層内で増殖するカエルツボカビ(遊走子嚢や有隔葉状体)を観察することによって診断される.(宇根有美)
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