[動物]イヌ,雑種,雄,11 歳齢.
[臨床事項]元気消失で某動物病院に来院し,X 線検査により前胸部から左側肺野に腫瘤があり,右側には多数の微小な陰影が認められた.四肢は末端が肥大しており,これらのことから肺腫瘍および肺性肥大性骨症が疑われた.治療はステロイド投与のみであり,約 1 ヵ月後に死亡し,同日に病理解剖を行った.
[剖検所見]肺の左前葉前部に直径約 8 cm,左後葉に直径約 5 cm,右副葉に直径約 3 cm 大で,内部の融解が著しい白桃色の腫瘤があり,さらに様々な大きさの白色腫瘤が肺全体に散在していた(図 1).また縦隔部には多数の白色米粒大腫瘤があり,左前葉前部の腫瘤と連続し,さらに右副葉は横隔膜と癒着し,癒着部および横隔膜には白色微細腫瘤が播種性に存在していた.脳では左側の大脳脚や橋にかけて直径約 2 cm 大の灰白色の結節性腫瘤があり,周囲の脳組織の融解,硬膜の癒着と腫瘤に接する頭蓋骨の融解や下垂体窩の変形が認められた.左右腎臓にも直径 1 cm 大以下の白色腫瘤が散在し,左腰部の腹壁にも直径約 3 cm 大の融解顕著な腫瘤が存在した.四肢の骨幹部には骨増生が顕著であり,肺性肥大性骨症を呈していた.その他としては心臓の左右房室弁の顆粒状肥厚や骨形成性エプリスであった.
[組織所見]肺において融解が著しい腫瘤の辺縁や散在する白色腫瘤は,主に小型紡錘形の未分化な神経系腫瘍細胞が高密度で瀰漫性に増殖し,大小の血管周囲には偽ロゼット配列がみられ,さらに散在する壊死巣周囲には pseudopalisading も認められた(図 2).腫瘍細胞は濃染する類円形の核を有し,細胞質は細くて伸長し,Homer-wright 型の偽ロゼット配列も散在性に認められた(図 3).また,核小体明瞭な大型核を有する異型性が強い腫瘍細胞の集簇もみられた(図 4).分裂像は散在性であった.同様の腫瘍細胞は肺以外にも縦隔,胸膜,横隔膜,腹膜,腎臓,副腎,大脳脚から橋さらに小脳にかけて,およびそれに連続する頭蓋骨にも認められた.免疫組織学的検索では vimentin,S-100,NSE に対する抗体に陽性で,cytokeratin (AE1/AE3),desmin,neurofilament,GFAP,MBP,CNPase,chromogranin A,synaptophysin,calcitonin,ACTH,HLA-DRα,CD3,CEA,c-kit,CD99 (MIC2) に陰性であった.
[診断]肺の原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)
[考察]本腫瘍は中枢神経系原発が多く,本症例も小脳を含む脳実質や連続する頭蓋骨への浸潤が認められたが,長期的な呼吸器症状や肉眼的所見から,肺原発で脳の腫瘤は転移性であると推察した.(三好宣彰)
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