No.956 イヌの肝臓

大阪府立 大学


[動物]イヌ,ミニチュアピンシャー,雄,7 ヶ月齢,体重 2 kg.
[臨床事項] 6 ヶ月齢時に嘔吐,削痩(体重 4.7 kg),腹囲膨満および腹水貯留が認められた.試験開腹したところ,肝,脾および腸管全体が白色の膜状物で覆われていた.膜状物を剥離し,ステロイド剤を投与したが,症状は改善されなかった.7 ヶ月齢時には重度削痩(体重 2.4 kg)および腹水貯留が認められ,開腹したところ,横隔膜,肝臓側面および腸管全体に白色膜状物が再発していた.膜状物を除去し,ステロイド剤投与を行って経過観察していたが,術後 8 日目に死亡した.本症の肝酵素値および血中アンモニア値は正常範囲内であった.
[肉眼所見]肝,脾および腸管が白色膜状物で覆われていた.肝葉が未発達で(図 1),胆嚢が肝実質に埋没していた.
[組織所見]肝実質には,小葉構造が不明瞭な領域(図 2)と,比較的明瞭な領域が混在していた.小葉構造が不明瞭な領域では,索状の肝細胞索が一定方向に走行し,細網線維に囲まれていた(図 3 ; 鍍銀染色).肉眼的に見られた白色膜状物は,細胞成分の乏しい線維性組織で構成され,一部では,線維性組織の中に肝細胞の集塊が観察された(図 4).
[診断]肝形成不全
[考察]本症は,肉眼的な肝葉の発育不全に加えて,組織学的にも肝小葉の構築異常が顕著であり,発症年齢から先天的な肝形成異常が疑われた.臨床的に見られた腹水症は,腹腔臓器を取り囲む線維性腹膜・被膜の形成を伴っており,ヒト,犬および猫で報告のある硬化性被嚢性腹膜炎と類似する病態と考えられた.ヒトと同様,犬の硬化性被嚢性腹膜炎も様々な病因により発症することが報告されているが,肝病変はその一因と考えられている.本例に見られた肝の構築異常は,持続的な腹水症の背景として重要と考えられた.(井澤武史・桑村 充)
[参考文献]
1) Boothe HW et al. Sclerosing encapsulating peritonitis in three dogs. J. Am. Vet. Med. Assoc. 198: 267-270 (1991).
2) Hardie EM et al. Sclerosing encapsulating peritonitis in four dogs and a cat. Vet. Surg. 23: 107-114 (1994).