No.957 イヌの肝臓

岐阜大学


[動物]イヌ,ジャックラッセルテリア,雌,4 歳 1 ヶ月齢.
[臨床事項]1 週間持続する嘔吐を主訴に岐阜大学付属動物病院に来院.軽度削痩,重度の黄疸を呈し,T-Bil および CRP の上昇が認められた.レントゲン検査にて,左側肝臓陰影の縮小および右側肝臓の腫大が認められた.病理検査のため,肝臓内側右葉の生検材料が当教室に送付された.プレドニゾロンとシクロスポリンの併用投与を行ったが,第 46 病日に死亡した.剖検はされなかった.
[肉眼所見]肝臓表面および割面において,不整形の赤色斑が散在性に多数認められ,ニクズク肝様を呈した(図 1).
[組織所見]グリソン氏鞘および肝実質の一部において,褐色色素の沈着が認められた(図 2).グリソン氏鞘では褐色色素を貪食した多数のマクロファージ,少数の好中球,リンパ球および形質細胞の浸潤が認められた(図 3).また,小葉間動脈および小葉間静脈は観察されたが,小葉間胆管は消失し,グリソン氏鞘と肝小葉の境界部では,細胞質が淡明で不規則な配列を示す上皮様細胞塊が散見された.胆管壁を有する比較的径の大きい隔壁胆管は残存していた.一方,肝実質では,肝細胞の変性,壊死が散在性に認められた(図 4).マクロファージに見られた褐色色素はベルリンブルー染色で青色(図 5),シュモール反応で暗緑色を示し,ホール染色陰性であったことから,ヘモジデリンであった.免疫染色では,グリソン氏鞘周囲に存在した上皮様細胞は Cytokeratin 19 陽性であったが,これらの細胞による明確な管腔形成は認められなかった(図 6).
[診断]小葉間胆管の消失(破壊性胆管炎を疑う)
[考察]本症例は小葉間胆管の消失とグリソン氏鞘におけるヘモジデリンを貪食したマクロファージの浸潤を特徴とする胆管炎と考えられた.この組織学的特徴は犬における破壊性胆管炎と類似していた.会場からも破壊性胆管炎を推す意見が聞かれたが,胆管の消失にマクロファージの浸潤が無関係との意見もあり,上記診断とした.(酒井洋樹)
[参考文献]
1). Ted S. G. M. van den lngh et al. 2006. Morphological classification of biliary disorders of the canine and feline liver. pp.61-76. In: WASAVA Standards for Clinical and Histological Diagnosis of Canine and Feline Liver Diseases. (WSAVA Liver Standardization Group ed.).