No.958 イヌの皮膚

北海道大学


[動物]イヌ,ラブラドルレトリバー,雌,7 歳.
[臨床事項]本例はアトピー性皮膚炎のためときおりセファレキシンとプレドニゾロン (0.2 mg/ kg) を投与されていた.2007 年 9 月腰背部皮膚に脱毛,発赤,痂皮形成,落屑があらわれ,病変は背部から頚部,顔面へと広がっていった.エンロフロキサシン,プレドニゾロン (1.5 mg/ kg),ビタミン剤,アザチオプリンを投与したが,効果はなかった.同年 10 月の血液検査では白血球 59,600/μl,好酸球 1,190/μl であった.同年11月病変は四肢末端を除く概ね全身の皮膚に広がり(図 1),掻痒も認められた.明瞭な水疱は確認されなかった.前頭部,頚背部,右肩部,腰背部の皮膚から生検材料が採取された.細菌検査では皮膚の一部から黄色ブドウ球菌と MRSA が検出されたが,いずれも少数であった.本例は翌年 1 月に死亡し,剖検は行われなかった.
[組織所見]提出標本は病変が軽度で病変形成初期の変化と判断される頚背部皮膚である.主な変化は表皮および毛包漏斗部の角質層下好酸球性微小膿疱(図 2)と有棘細胞層内の好酸球浸潤であった(図 3).浸潤細胞の顆粒はルナ染色で鮮赤色に染まった(図 4).このほか,表皮の過角化と過形成,毛包萎縮,表皮間水腫,真皮浅層の好酸球,肥満細胞,好中球のびまん性軽度の浸潤,軽度の血管周囲性リンパ球・形質細胞浸潤が見られた.
[診断]表皮内好酸球浸潤の著明な丘疹膿疱性皮膚炎
[考察]好酸球性膿疱が出現する疾患には,膿痂疹,表在性拡大型膿皮症,皮膚糸状菌症,マラセチア皮膚炎,天疱瘡,犬の無菌性好酸球性膿疱症 ( SEP ),角質層下膿疱性皮膚症,表在型膿疱性薬物反応などがあげられる.これらのうち,特染により病原体が検出されなかったことから,感染症を否定した.また,典型的な棘融解がないことから天疱瘡を除外した.残る後者 3 疾患の臨床経過,病変の性状と分布を比較した結果,本例は SEP と考えられた.しかし,ステロイドに無反応であったこと,剖検されなかったことを考慮し,疾患名は「SEP を疑う」とした.(落合謙爾)
[参考文献]
1) Scott, D.W. J. Am. Anim. Hosp. Assoc. 20: 585-589 (1984).
2) Gross, T,L. et al. Skin Diseases of the Dog and Cat, 2nd ed. Blackwell. pp.417-418 (2005).