No.960 ネコの眼瞼結膜下腫瘤

帯広畜産大学


[動物] ネコ,雑種,去勢雄,3 歳 9 ヵ月齢.
[臨床事項]2007 年 2 月に,上眼瞼の腫脹を主訴に某動物病院を受診した.初診時,両側の上眼瞼結膜の強い浮腫を認めた.内科的治療を行ったが改善せず,4 月には両側上眼瞼結膜下にやや隆起する腫瘤が出現した.その後も改善は認められず,7 月に両側の腫瘤を外科的に摘出した(右側腫瘤は小豆大,左側腫瘤は米粒大).なお,2008 年 5 月現在,再発は認められていない.
[肉眼所見] 両側の腫瘤は乳白色で表面滑沢であった.
[組織所見] 右側腫瘤は,眼瞼結膜下の結合組織層における多核巨細胞およびマクロファージを主体とする炎症性細胞の集簇から成っていた.また,集簇巣内にはこれら細胞によって取り囲まれた大小様々な細胞外空隙を認めた(図 1).多核巨細胞およびマクロファージの中には,細胞質内に大小様々な空胞を有するもの(図 2),細胞質内に多数の微小裂隙を有するもの(図 3)も認められた.これら細胞外空隙(図 4),細胞質内空胞(図 5),および細胞質内裂隙はいずれもズダン V 染色により赤橙色に染色され,脂質であることが確認された.
[参考所見]左側腫瘤の組織像は,右側腫瘤の組織像と基本的に同質であった.
[診断]結節性脂肪肉芽腫性結膜炎(Nodular Lipogranulomatous Conjunctivitis)
[考察]マイボーム腺の腫瘍や炎症の際に,漏出した脂質に対し形成される脂肪肉芽腫は霰粒腫とされ,犬で多く報告されている.しかし猫では,マイボーム腺の腫瘍や炎症が認められない場合にも眼瞼結膜下に脂肪肉芽腫が発生するとされており,結節性脂肪肉芽腫性結膜炎とされている.本病変は両側性に多く発生し,内科的治療において難治性であるとされている.本病変を引き起こす脂質がどのように漏出するかは不明であるが,マイボーム腺との関連が示唆され,霰粒腫の一亜型という考え方もある.今回の症例においても,原因の特定には至らなかった.(舟戸愼悟・古林与志安)
[参考文献]
1) Wilcock B, Dubielzig RR, Render JA. Histological Classification of Ocular and Otic Tumors of Domestic Animals, 2nd Series, Vol.\, Armed Forces Institute of Pathology, Washington, DC (2002).
2) Read RA, Lucas J. Lipogranulomatous conjunctivitis: Clinical findings from 21 eyes in 13 cats. Vet. Ophthalmol. 4: 93-98 (2001).