[動物]ラット(F344/DuCrj), 雌, 90 週齢.
[臨床事項]本例はがん原性試験の無処置対照群に供されていた動物で, 90 週齢時に死亡し, 剖検された.
[剖検所見]剖検時体重 185 g.腹腔内に 60 x 25 x 35 mm 大の暗赤色腫瘤として認められた.腫瘤は右側背部の腹壁に存在し, 一部横隔膜を貫通して胸腔内に突出していた.腫瘤と腹腔内臓器との癒着および腫瘤が腹腔内臓器を巻き込むことはなかった.腫瘤の割面は分葉状充実性で, 大小の嚢胞形成を伴っていた(図 1).
[組織所見]腫瘍組織内には血液を充満した大小の類洞様空隙, 出血巣および壊死巣が観察され,一部には血栓形成も認められた(図 2).また, 類骨組織の形成が散見され, 一部に石灰沈着を伴っていた.腫瘍組織では異型度の高い類円形〜紡錘形の腫瘍細胞がび漫性に増殖し(図 3), 一部に破骨細胞様の多核巨細胞が観察された(図 3 inset).免疫組織学的検索では, 腫瘍細胞および多核巨細胞が Vimentin および Osteopontin (図 4) に陽性を示し, 一部の腫瘍細胞と類骨が Collagen type I および Osteocalcin に陽性を示した.PCNA には腫瘍細胞のみが陽性を示し, 多核巨細胞は陰性であった.また, ED1 には多核巨細胞のみが陽性で(図 5), 一部の類骨が Bone sialoprotein に弱陽性を示した.電顕検索では, 腫瘍細胞の核に不規則な切り込みがみられ, 細胞質内には一部拡張した粗面小胞体と少数の細胞内小器官が認められた(図 6).多核巨細胞には豊富な小型のミトコンドリアがみられた.
[診断]老齢ラットの腹腔内にみられた自然発生性骨外性骨肉腫
[考察]病理組織学的検索結果より, 腫瘍細胞では Collagen type I, Osteocalcin および Osteopontin タンパクの発現が確認され, 骨芽細胞に類似した性質を有していることが示された.一方, 多核巨細胞は, その形態的特徴と Osteopontin および ED1 タンパクの発現より, 破骨細胞に類似した細胞であると考えられた.本症例では腫瘍巣内に血液を充満した多数の拡張した類洞様組織が観察され, 類骨形成を伴った骨芽細胞様腫瘍細胞の増殖がみられたことより, 血管拡張型と考えられる.ラットの骨外性骨肉腫の報告は非常に少なく, 心嚢, 横隔膜, 腹部皮下組織, 胃での報告が数例あるのみである.いずれの報告例でも類骨形成を伴った骨芽細胞様腫瘍細胞の増殖を特徴としている.本症例は右側背部の腹壁で腫瘤が認められたものの, 脊椎骨など周囲骨組織との連続性は観察されなかったため骨外性骨肉腫とした.(長谷川也須子)
[参考文献] 1) Minato, Y., Yamamura, T., Takada, H., Kojima, A., Imaizumi, K., Wada, I., Takeshita, M., and Okaniwa, A. 1988. An extraskeletal osteosarcoma in an aged rat. Jpn. J. Vet. Sci. 50: 259-261.2) Yoshizawa, K., Matsumoto, M., Oishi, Y., and Nyska, A. 2005. Extraskeletal osteosarcoma with cystic appearance in an aged Sprague Dawley rat. Toxicol. Pathol. 33: 762-765.
3) Okazaki, S., Ando, R., Matsushima, K., Hoshiya, T., and Tamura, K. 2010. Spontaneous extraskeletal osteosarcoma in the stomach of an aged F344 rat. J. Toxicol. Pathol. 23:
157-159.
|