[動物]ウマ,シェットランドポニー,去勢雄,10 歳.
[臨床事項]茨城県内のポニー牧場で,本症例と他の 7 頭が飼育されていた.本症例は,乗馬するとき以外は厩舎で飼育されていた.病歴はなく,日本脳炎のワクチンが接種されていた(2005 年 8 月 28 日と 2006 年 9 月 24 日).2006 年 10 月 21 日に突然,食欲不振を呈した.次の日には,運動失調がみられ,ふらつき,壁にもたれかかっていた.容態は短時間で悪化し,夜には起立不能,意識混濁,遊泳運動がみられた.この後,右足と腰の皮膚に重度の損傷が認められた.2006 年 10 月 24 日午前中に死亡を確認した.
[剖検所見]剖検時体温は正常であった.肉眼病変は,腎臓,腎臓リンパ節,小脳と皮膚にみられた.多数の灰白色の肉芽腫病変は,両側腎臓(特に右側)にみられた(図 1).腎門リンパ節は腫大し,割面は白色を呈した.小脳では壊死が認められた.いくつかの褥瘡性潰瘍が右足と腰部の皮膚で認められた.歯肉と口腔粘膜を含むその他の臓器に病変はみられなかった.
[組織所見]肉眼的に認められた腎臓の病変部分では,腎臓の正常な組織学的構造はなく,多発性の肉芽腫(図 2)と線虫(図 3)により崩壊していた.炎症細胞は主として類上皮細胞と多核巨細胞から成っていた.線虫は肉芽腫の中央と集合管に局在していた.腎門リンパ節は,腎臓の病変と類似していた.小脳は血管炎と多数の線虫を伴う肉芽腫性髄膜炎がみられた.同様の中等度の病変は中枢神経系のその他の場所でも認められた.線虫はこれらの病変でも認められ,それらの多くが幼虫であった.肉眼的にみられた皮膚病変部の骨格筋は壊死していた.その他の病原体は肉芽腫性または壊死性病変にはみられなかった.その他の臓器に病変は認められなかった.形態的特徴およびリボソーム RNA 遺伝子の大サブユニットの塩基配列解析により,この線虫は,Halicephalobus gingivalis であることが示唆された(図 4).
[診断]Halicephalobus gingivalis による肉芽腫性腎炎
[考察]H. gingivalis がこのポニーに肉芽腫性腎炎と髄膜脳脊髄炎を引き起こしたと考えられた.今回みられた肉芽腫の病変の形成(特に脳)は,H. gingivalis と血管炎に関連があった.この線虫が血流中に入り中枢神経系に到達したあと,容体が悪化し,致死性の神経障害を引き起こしたと考えられた.さらに線虫がリンパ節でみられたことより,リンパ行性に移行することも考えられた.(赤上正貴・芝原友幸)
[参考文献]
1) Akagami M. et al., J Vet Med Sci. 69:1187-1190 (2007).
2) Shibahara T. et al., Vet Rec. 151:672-674 (2002).
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