[動物]Kbl:JW ウサギ,雄,30 日齢,体重 331g.
[臨床事項]ウサギ生殖検討試験において,人工授精により生まれた同腹の出生児 6 匹のうち 5 匹に起立不能が見られた.これらのウサギは発育とともに歩行障害,協調障害,強直性痙攣が観察された.本症例はその 5 匹のうちの 1 匹である.
[肉眼所見]同日齢の正常ウサギの脳と比較して,顕著な変化は認められなかった.
[組織所見]正常ウサギと比較して,小脳虫部分子層の菲薄化が認められた.分子層ではプルキンエ細胞樹状突起の密度の減少,枝の不規則な太さと配列が認められた(図 1,a 症例, b 対照.calbindin 抗体).プルキンエ細胞体には中心性色質融解が限局的に見られた.顆粒細胞層では,細胞密度の減少および散在性のアポトーシスが認められた(図 2.TUNEL 法).顆粒層から髄質にかけて,円形の空胞や好酸性の球状体が散在性に認められた(図 3).これは変性・腫大した軸索(スフェロイド)および空胞化した髄鞘と判断された.電子顕微鏡検査では,分子層平行線維の減少と,プルキンエ細胞‐顆粒細胞のシナプスの減少が認められた(図 4,a 症例, b 対照).
[診断]顆粒層および髄質に空胞形成を伴う,ウサギ小脳の abiotrophy
[考察]今回検索した小脳性運動失調を示すウサギは,生後まもなくの兄弟での発症より,遺伝性の疾患であることがうかがわれる.病変の特徴として,見かけ上の小脳萎縮や小型化は見られず,組織学的にプルキンエ細胞の細胞体および樹状突起の異常,顆粒細胞および平行線維の減数,軸索および髄鞘の変性が見られた.すなわち,遺伝性,進行性,早発性の小脳皮質変性を伴う神経機能障害として,獣医分野で総括的に使われている小脳皮質 abiotrophy が当てはまるものと考えられる.一般に小脳皮質 abiotrophy では,著しいプルキンエ細胞もしくは顆粒細胞の減少が見られることが多い.今回,劇的な症状にもかかわらず標本上での組織変化が一見軽微であることが疑問としてあげられるが,本症例の神経障害の根源がプルキンエ細胞‐顆粒細胞のシナプス形成異常にあると考えれば納得できることである.(佐藤順子)
[参考文献] 1) Sato, J., et al., 2011, Vet pathol, Online.
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