[動物]ネコ,アビシニアン,避妊雌,8 歳 3 ヶ月齢.
[臨床事項]嘔吐,食欲不振を主訴に動物病院に来院し,エコー検査では肝臓広域に胆管の拡張が認められた.肝支持療法が実施されたが,改善はなく,肝生検が行われた.
[肉眼所見]標本の一部に,周囲肝組織よりやや白色調の径約 8 mm 大腫瘤が観察された.
[組織所見]肝細胞に類似しているものの,細胞質がやや乏しく小型の類円形〜短紡錘形細胞が,繊細な血管結合組織で分画されつつ,索状〜シート状に増殖していた(図 1).増殖細胞の細胞境界は不明瞭なものが多く,核は概ね類円形で,顕著な異型はなかった.核分裂像は少数であった.一部では,ロゼットや胆管様の構造を形成しており(図 2),腫瘤辺縁などでは膠原線維を伴う紡錘形細胞が増生していた(図 3).免疫染色では,腫瘍細胞は肝細胞マーカーの alpha-fetoprotein(図 4)に弱陽性であった.一方,胆管上皮細胞マーカーである cytokeratin 7(図 5), 8/18 および CAM 5.2 に陽性を示した.一方,また,神経系マーカーの PGP 9.5,CD 56(図 6)に陽性を示したが,クロモグラニンとグリメリウス染色は陰性であった.
[診断]猫の肝芽腫(hepatoblastoma)
[考察]肝芽腫は胎児性又は胚芽性肝細胞が増殖する腫瘍とされ,動物での発生は稀である.マウスでは,短紡錘形細胞がロゼット構造や organoid structure を形成することを特徴とする.ヒトでは,免疫組織化学染色で特異的なマーカーが存在せず,肝細胞,胆管,神経系マーカーに様々な染色態度を示す.組織所見よりカルチノイドの可能性も考えられたが,グリメリウス染色と免疫染色の結果より否定された.また,免疫染色では,胆管と肝細胞への分化が証明され,神経への分化も示唆された.これまで猫に肝芽腫の報告はないが,組織学的形態と免疫染色結果より,本症例は肝芽腫に相当すると考えられた.(阿野直子)
[参考文献] 1) Head, K. W. and Else, R. W. 2002. Tumors in Domestic Animals, ed. Menten DJ, 4th ed., pp. 492. Iowa State Press, Ames, Iowa.
2) Nonoyama, T., Fullerton, F., Reznik, G., Bucci, T, J. and Ward, J. M. 1988. Vet Pathol. 25: 286-296.
3) Ramsay, A. D., Bates, A. W., Williams, S. and Sebire, N. J. 2008. Appl Immunohistochem Mol Morphol. 16: 140-147.
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