No.980 ブタの回腸

日生研


[動物]ブタ,約 50 日齢,品種及び性別は不明.
[臨床事項]鹿児島県の A 農場で,2007 年 10 月頃より 45 日齢以降の豚で下痢が見られ,60 日齢頃から死亡が目立つようになった.豚の死亡は 2007 年 12 月頃がピークで,30 % 以上に達したが,その後は回復傾向を示した.検体は病性鑑定目的で 2008 年 1 月 31 日に A 農場で採材され,十二指腸から直腸までの腸管のみが 2 月 1 日に当所へ冷蔵された状態で到着した.
[剖検所見]腸管は十二指腸から直腸まで黒褐色を呈し,腸壁は菲薄化していた.腸管内には黒茶色の液状物が中等量認められた(図 1).
[組織所見]結腸では,粘膜面の壊死および出血,粘膜固有層でのリンパ球,マクロファージの浸潤が観察され(図 2),陰窩の内外には細長いらせん菌が散在し,それらはワーチンスターリー染色で黒く染め出された(図 3).回腸では,粘膜の絨毛は消失し,パイエル板リンパ球の減少とマクロファージの浸潤が観察された(図 4,5).マクロファージの細胞質内には好塩基性の封入体が観察され(図 6),2 型豚サーコウイルス(PCV2)に対する免疫染色で陽性を示した(図 7).PCV2 に対する in situ ハイブリダイゼーションでは,免疫染色の結果よりもさらに多数の陽性シグナルが回腸粘膜下織の細胞集簇巣(図 8)のみならず,粘膜固有層の浸潤細胞においても観察され,さらに結腸でも同様な部位の浸潤細胞に陽性シグナルが少数認められた(図 9).
[診断]肉芽腫性回腸炎および壊死性出血性結腸炎
[考察]結腸で観察されたらせん菌は細菌検査が未実施のため鑑別不能であったが,それらの形態と細胞外に存在することなどからブラキスピラ属の細菌を疑った.PCV2 に関連した腸炎では,ローソニアやブラキスピラ属の菌種との重感染についての症例や調査報告が多数発表されている [1, 2].病理組織学的診断は上述の通りであるが,疾患名としては,腸管以外の臓器の検索を行なっていないものの腸間膜リンパ節にも PCV2 のウイルス封入体が観察されることから,豚サーコウイルス関連疾患(PCVAD)に包括されると考えられる. (上塚浩司)
[参考文献]
1) Jensen, T. K., Vigre, H., Svensmark, B. and Bille-Hansen, V. 2006. Distinction between porcine circovirus type 2 enteritis and porcine proliferative enteropathy caused by Lawsonia intracellularis. J Comp Pathol 135: 176-182.
2) Komarek, V., Maderner, A., Spergser, J. and Weissenbock, H. 2009. Infections with weakly haemolytic Brachyspira species in pigs with miscellaneous chronic diseases. Vet Microbiol 134: 311-317.