[動物]イヌ,ウェスティ,雄,8 歳. [臨床事項]2008 年 5
月,左側精巣腫大(陰睾,3.5 × 2 cm
)を主訴に来院.右側精巣は陰嚢内にあり萎縮していた.血液学的検査に著変なし.同月内に去勢手術が行われ,摘出された左右精巣のホルマリン固定材料が当研究室に送付された. [肉眼所見]左側精巣の腫瘤割面では,灰白色と赤褐色充実性の腫瘤がそれぞれ隣接して認められた. [組織所見]左側精巣内に
2 個の大型結節が認められた(図 1).提出標本は肉眼的にヘマトキシリン濃染部( * 領域)を対象とし,他方は悪性セルトリ細胞腫と診断された.*
領域では,精細管由来の管腔内に小型〜大型多角形の精母細胞様細胞の腫瘍性増殖が認められ(図 2),増殖巣内には大型核と明瞭な核仁を 1 〜
数個有する奇怪な形態の巨細胞や多核巨細胞が散見された(図 3
矢印,矢頭).これらの像に加え,ヘマトキシリンに濃染する類円形核を有する小型細胞の増殖,更にロゼット及び偽ロゼット様構造が散見された(図
4).精母細胞様細胞はPAS陰性(図 5),異型性は高く,クロマチンは細線維状で有糸分裂像も散見された.ロゼット形成部位の小型細胞は S-100(図
6),NSE(図 7),synaptophysin(図 8),neurofilament(図 9),MAP-2 及び vimentin
に陽性を示し,nestin 及び GFAP に陰性であった. [診断]原始神経外胚葉性腫瘍( PNET
)を伴う精母細胞性セミノーマ [考察]研修会では,本症例は WHO 分類に沿って Mixed germ cell-sex
cord stromal tumor と診断するべきというご指摘を頂いた.しかし,悪性セルトリ細胞腫との境界は明瞭であり,*
結節内の一部にみられた悪性セルトリ細胞腫成分は片側の腫瘍からの浸潤像とみなし,衝突癌と判断された.また,犬のセミノーマはその組織発生から雄性生殖細胞由来の古典的セミノーマと成熟精母細胞由来の精母細胞性セミノーマの
2 タイプに分類され,構成細胞の形態学的差異に加え,後者は PAS
陰性と報告されている.本症例は以上の分類から精母細胞性セミノーマと考えられ,それに神経系マーカーに陽性を示す PNET
の成分を伴う腫瘍と考えられた.(三枝由紀恵・渋谷 淳) [参考文献] 1) Grieco, V., Riccardi,
E., Rondena, M., Ciampi, V. and Finazzi, M. 2007. Classical and
spermatocytic seminoma in the dog: histochemical and immunohistochemical
findings. J. Comp. Pathol. 137:41-46. 2) Maiolino, P.,
Restucci, B., Papparella, S., Paciello, O. and De Vico, G. 2004.
Correlation of nuclear morphometric features with animal and human world
health organization international histological classifications of canine
spontaneous seminomas. Vet. Pathol. 41:608-611.
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