No.984 マウスの精巣腫瘤

(財)残留農薬研究所


[動物]マウス,Crlj:CD1(ICR),雄,84 週齢.
[臨床事項]発がん性試験に用いた投与群の動物で,79 週間投与終了後に計画殺.剖検の 1 週間前より外陰部の腫脹.
[剖検所見]右側精巣に直径約 20 mm の淡褐色腫瘤.
[組織所見]腫瘍細胞は卵円形から紡錘形の核を持ち,腫瘤の辺縁部(図 A)では微細〜中程度の空胞を有する細胞が充実性に増殖し,中央部(図 B)では好酸性の細胞質を持つ細胞が時に花筵様に増殖していた.核の異型性や分裂像とともに,出血,壊死,被膜への浸潤像が観察され,一部の壊死周囲では pseudopalisading が認められた.腫瘍細胞は oil red O に陽性(図 C),免疫染色では inhibin(図 D),S-100(図 E),α-smooth muscle actin(αSMA,図 F),vimentin に陽性,androgen receptor に陰性であった.腫瘍内部には,萎縮精細管や eosinophilic globule cell が散見された.Bar = 20 μm.
[診断]Malignant Leydig cell tumor,spindle cell type.
[考察]紡錘形細胞の増殖より当初,間葉系由来の腫瘍を疑った.しかし,脂肪の蓄積や卵円形細胞の集蔟巣,免疫染色の結果から,Leydig cell 由来が示唆された.一般に Leydig cell tumor は αSMA 陰性であり,ヒトで αSMA 陽性を示す腫瘍として Incompletely differentiated (unclassified) sex cord/gonadal stromal tumor が知られている.しかし,この未分化腫瘍ではほとんどの腫瘍細胞が αSMA 陽性を示すため,本症例の染色パターンとは異なっていた.Leydig cell の progenitor cell は αSMA 陽性を示すことから,腫瘍細胞の”脱分化”を反映している可能性も考えられた(吉田敏則・大沼彩).
[参考文献]
Magro, G., Gurrera, A., Gangemi, P., Saita, A. and Greco, P. .2007. Incompletely differentiated (unclassified) sex cord/gonadal stromal tumor of the testis with a "pure" spindle cell component: report of a case with diagnostic and histogenetic considerations. Pathol. Res. Pract. 203: 759-762.