[動物]イヌ,秋田犬,雌 (未避妊) ,2 歳 10 ヶ月.
[臨床事項]本症例は羞明を主訴に近医を受診し,眼科検査において,左右両眼で汎ぶどう膜炎と診断された.ぶどう膜炎はステロイドの加療に反応し,一旦は沈静化したものの再燃し,失明に至った.飼い主の意向により安楽死を実施し,同日病理解剖を実施した.
[剖検所見]矢状断にて割断した右眼球において,角膜は白濁し,前眼房では白色ゼリー状物が貯留していた.また,網膜は鋸状縁より剥離していた(図1; ブアン固定標本).
[組織所見]虹彩,毛様体および脈絡膜は,様々な量の茶褐色色素を貪食したマクロファージと類上皮細胞や少数のリンパ球,形質細胞の高度の浸潤による肥厚がみられた(図 2,3).この茶褐色色素は,漂白法で脱色されたことからメラニン色素であることが示された.また,眼球後極において,視神経乳頭部は軽度に水腫を呈していた.網膜は色素上皮層と杆・錐状体層で分離しており,剥離下では漿液が貯留していた.さらに色素上皮層側で,マクロファージおよびメラニン色素を貪食したマクロファージからなる結節状病変(ダレン・フックス結節)も形成されていた(図 4).そのほか,前眼房では漿液が多量に貯留していた.同様の所見が左眼球にも認められた.
[診断]組織診断名;肉芽腫性汎ぶどう膜炎 疾患名: Vogt-小柳-原田症候群様疾患
[考察]本症例は虹彩,毛様体および脈絡膜において,メラニン顆粒を貪食したマクロファージの浸潤および,び漫性の肉芽腫病変が形成されていることから,肉芽腫性汎ぶどう膜炎と診断した.両眼性のこの組織学的特徴は,ヒトにおける Vogt-小柳-原田症候群における眼病変や過去に報告されているイヌの Vogt-小柳-原田症候群様疾患に一致していた.本症例は,好発犬種である秋田犬ということも考慮して, Vogt-小柳-原田症候群様疾患と診断した.(村上麻美・酒井洋樹)
[参考文献] 1) Wilcock.,B.P., 2007. Eyes and ear. pp. 459-552. In: Jubb, Kennedy, and Palmer’s
Pathology of the domestic animals, 5th ed. (Maxie, M.G. ed.), Saunders, Philadelphia.
2) Nakanuma, Y.,1996. Uveitis. pp199-210. In: Modern Pathology, suppl 3, Nakayamashoten, Tokyo (in Japanese).
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