[動物]ウサギ (日本白色種,Kbl:JW),雄,19 か月齢,体重 3,070 g.
[臨床事項]本症例は 2007 年 6 月に入荷後,点眼薬の薬効試験に供された.入荷時に上顎切歯の不正咬合がみられ,定期的に過長部をカット整形されていた.2008 年 8 月に最後の切歯整形を受け,飼育部門に移管された.その約 2 か月後に右頬部の腫脹に気づき,細菌性の骨髄炎を疑ったため麻酔下で放血致死させた.
[剖検所見]右下顎骨が臼歯部を中心に 3×3×3 cm 大に腫大し,腫瘤を形成していた(図 1).右下顎第一前臼歯部とその歯肉にかけて
φ8 mm 大の潰瘍がみられ,相対する右上顎の第一前臼歯は過長気味であった.また,右側下顎リンパ節が φ1 cm 大に腫大していた.
[組織所見]下顎骨腫瘤はマイクロカッティングマシン (EXAKT-Cutting Grinding System, EXAKT Apparatebau GmbH, Norderstedt, Germany) で前額断し,固定後カルキトックス TM (和光純薬工業,大阪) にて 4 ℃ 1 日間脱灰した.腫瘤内では,不規則な形状の骨梁とそれを取り囲む紡錘形細胞によって正常顎骨組織はほとんど置換されていたが,下顎管は保持されており,周囲組織への浸潤像は観察されなかった (図 2). 紡錘形細胞がレース状あるいは渦巻状に増殖した中には,しばしば類骨を伴った未熟な骨が認められ (図 3,吉木法による類骨染色) 類骨縁 (osteoid seam) も散見された.核分裂像や比較的広汎な壊死組織も認められた.免疫染色では,紡錘形腫瘍細胞の細胞質が抗 Osteocalcin 抗体に陽性を呈した.また,下顎管に近接して整然とした構築を保った歯根組織が確認された.ここでは歯胚から歯乳頭に至る過程で,エナメル上皮と象牙芽細胞への分化がみられ象牙質が形成されていた(図 4).
[診断]分離歯根組織を伴った骨内骨肉腫,線維芽細胞型
[考察]ウサギ目の歯牙は切歯,臼歯ともに終世成長を続ける無根歯である.本症例では臼歯部の下顎骨内に骨肉腫が形成されたため,歯根部は大半が破壊され腫瘍組織に吸収されたが,生残していた一部の歯根組織から歯牙が分化・発育したものと思われる.腫瘍の膨張性増殖に伴って本来の生育部位からは大きく移動しているにも関わらず,歯牙歯根の正常構築を保持していることから,分離組織と判断される.なお,骨肉腫の原発部位としては,不正咬合による慢性の物理的刺激や細菌による侵襲を受け続けた第一前臼歯の歯槽骨をその起原と考えたい.(勝田 修)
|