No.993 イヌの皮下腫瘤

北海道大学


[動物]イヌ,バーニーズ・マウンテン・ドッグ,雄,9 歳.
[臨床事項]本症例は約半年前より左前肢に軽度の跛行があり,1 週間前より左前肢を挙上するようにな った.触診により左肘関節の腫脹,X 線検査により左肘関節に骨吸収像と関節炎を疑う所見が認められた.血液検査では白血球数の増加,関節液中には好中球を主体とする炎症性細胞が認められたが,関節液の細菌培養検査の結果は陰性であった.関節洗浄および増生した滑膜の切除生検が行われ,その際,左肘関節付近の皮下に存在した腫瘤も同時に摘出された.提出標本はこの皮下腫瘤より作製された.
[剖検所見]皮下腫瘤は左肘関節に隣接して存在していたが,関節腔との連続性は明らかではなかった.皮下腫瘤はやや硬度を有しており,その割面は白色から桃白色であった.
[組織所見]腫瘤は多数の炎症性細胞の浸潤によって構成されており,膠原線維の変性,断裂を伴っていた(図 1).マクロファージを中心とする炎症性細胞の多結節性増殖が認められ,結節の中心部にはしばしば変性した膠原線維が存在し,その周囲を上皮細胞様のマクロファージが柵状に取り囲む像が認められた(図 2).また腫瘤の辺縁部では軽度の水腫および粘液の沈着が認められ,リンパ球・形質細胞の血管周囲への浸潤も観察された(図 3, 4).
[診断]柵状肉芽腫 Palisading granuloma
[考察]提出標本中に認められた組織所見は,成書に記述されている柵状肉芽腫の特徴に一致した.柵状肉芽腫は単発性の皮膚結節性病変として,大型犬に多く発生する傾向がある.しかし,その報告数は少なく,原因および病理発生の詳細は不明である.本症例では単核球浸潤を伴う関節炎が認められたことから,犬のリウマチ様関節炎およびリウマチに関連した皮下結節である可能性を考慮したが,リウマチ因子が陰性であったこと,関節炎が単発性であったことから臨床的にはリウマチは否定的であった.浸潤細胞の大部分は豊富な細胞質を有する類上皮細胞であり,細胞の異型性や有糸分裂像が観察されないこと,細胞の増殖形態などから腫瘍の可能性を除外した.(寸田祐嗣)
[参考文献]
1) Gross,T.L. et al. 2005.pp. 337-341. Skin Diseases of the Dog and Cat, 2nd ed. Blackwell.
2) Lee, M.W. et al. 1999. Clin. Exp. Dermatol. 24: 193-195.