No.994 ネコの皮下腫瘤

宮崎大学


[動物]ネコ,雑種,雄,6 歳 7 ヶ月齢.
[臨床事項]1 年前より包皮周辺および下腹部の皮下織に腫瘤を認めた.ステロイド剤投与で改善するが,中止すると再び腫瘤が出現するため切除した.腫瘤切除後半年で再発し,より大きくなった.
[組織所見]皮下脂肪組織において,アステロイド体様の菌集塊を多巣状性に認めた(図 1).その周囲では好中球,マクロファージ,多核巨細胞の浸潤を著しく認め,化膿性肉芽腫性炎を呈していた(図 2).菌集塊はドーナツ状など複雑な形状を示し,フィラメント状の菌糸が多数認められた(図 3).特殊染色において,本菌はグラム染色陽性(図 4),PAS 染色陽性,グロコット染色陽性,抗酸菌染色弱陽性であることが示された.また,菌集塊はコッサ染色陰性であった.
[診断]ネコのノカルジア感染による化膿性肉芽腫性皮下織炎
[考察]皮下に化膿性肉芽腫性炎を起こす原因菌としては Nocardia 属菌と Actinomyces 属菌が知られている.両者の鑑別点として菌塊の形状や抗酸菌染色があげられており,前者ではドーナツ状,弧状などの奇怪な形状を示し,抗酸菌染色で陽性を示すのに対し,後者では円形または楕円形の菌塊で抗酸菌染色陰性であることが知られている.本症例の HE 染色の特徴や特殊染色結果よりノカルジア症が疑われた.また,Nocardia spp. 16S rRNA に対する合成オリゴプローブを用いたin situ hybridization において陽性シグナルが認められ,PCR の結果からも Nocardia 属菌であることが示された.ネコのノカルジア症の報告例は少なく,原因菌種として N. asteroides,N. brasiliensis,N. otitidiscaviarum,N. africana,N.tenerifensis などの報告があるが,今回その特定には至らなかった.(野地川奈々恵・平井卓哉)
[参考文献]
1) Chapman,G.et al. 2003. Exp Neurol. 184: 715-725.
2) Ramos-Vara,J.A.et al. 2007. L. Vet. Diagn .Invest. 19: 577-580.
3) Wada,R. et al. 2003. J.Clin. Patho. 56: 966-969.