[動物]イヌ,ビーグル,雄,13 歳.
[臨床事項]2008 年 3 月に右頬上顎臼歯付近の口腔内腫瘤を主訴に開業医を受診.腫瘤は切除され,病理組織学的に血管周皮腫と診断されたが,2009 年 5 月,同部位に再発兆候が見られはじめ,同年 11 月に腫瘤の再摘出手術が行われた.
[肉眼所見] 6×4.5×2 cm.表面は不整で一部黒色を呈し,割面は黒色と白色領域が明瞭に区分されていた.
[組織所見]腫瘤内では,主に 3 つの特徴的組織像が観察された.類上皮細胞型領域(図 1)では,1 〜数個の明瞭な核小体を有する円形から卵円形の大型核と,褐色色素の沈着を伴う豊富で多形な好酸性細胞質を有する細胞が充実性に増殖し,有糸分裂像は中等度観察された.紡錘形細胞型領域(図 2)では,粗雑で少量のクロマチンを有する卵円形から楕円形核の紡錘形細胞が,束状,杉綾模様状,花むしろ状に増殖し,有糸分裂像は高頻度に観察された.粘液基質産生領域(図 3)では,クロマチンに富む小型の核を有する星芒状の細胞が増殖し,間質では弱好塩基性の粘液様基質が豊富に認められ,有糸分裂像は中等度に観察された.免疫組織化学的に腫瘍細胞は,S-100 (図 4),Vimentin に陽性,Melan-A (図 5)に一部陽性を示し,3 つの領域共に同様の染色態度であった.電顕的には,HE 標本でメラニン色素の観察されなかった紡錘形腫瘍細胞の細胞質内において,高電子密度の球形構造物がごくわずかに観察された.
[診断]犬の口腔内悪性黒色腫 Canine oral malignant melanoma
[考察]犬の口腔内における悪性黒色腫は,組織学的に類上皮細胞型,紡錘形細胞型,2 つの型の混合型の 3 つのパターンに分類され,さらに,骨や軟骨形成,粘液基質の産生を伴うものも報告されている.本症例では,明らかな骨や軟骨形成は観察されなかったものの,同一腫瘤内に,類上皮細胞型,紡錘形細胞型および間質に粘液基質の産生を伴ったそれぞれの領域が比較的境界明瞭に認められた.一方,初回摘出腫瘤では,紡錘形細胞による疎な増殖が見られ,一部では犬の血管周皮腫で特徴的な血管を中心とした紡錘形細胞の同心円状増殖パターンを示しており,1 回目と 2 回目に摘出された腫瘤における組織像が全く異なっていた.(山口遼作・佐々木淳)
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