[動物]イヌ,柴犬,雄,7 カ月齢.
[臨床事項]5 カ月齢頃から歩行時にふらつくようになり,徐々に顕著となり,6 カ月齢時に開業動物病院に来院した.頭位変換時の外側腹斜視が認められ,血液検査ではリンパ球の細胞質に空胞が観察されたため,GM1 ガングリオシドーシスを疑い,本学に遺伝子検査が依頼された.検査の結果,柴犬の GM1 ガングリオシドーシスの原因変異(del C1647)のホモ接合体であることが明らかとなった.本症例は,購入時の 3 カ月齢時にはすでに左右の舌下腺付近に腫瘤が生じており,提出標本は 7 カ月齢時に摘出された腫瘤である.腫瘤は左 3×2 cm 大,右 2.5×1.5 cm 大(提出標本),両側とも淡赤色を呈し,嚢胞状で,少量の透明な粘液が貯留し,嚢胞壁は 1〜数mm 大に肥厚していた(図 1).本症例は,12 カ月齢時に中枢神経障害が進行性に悪化して自然死したが,剖検は行われなかった.
[組織所見]口腔粘膜の固有層に大型類円形の泡沫細胞が多数浸潤し,血管線維組織の増生もみられた(図 2).泡沫細胞の核は類円形で,淡明や空虚な細胞質は単発空胞状あるいは微細網状を呈しており,脂肪芽細胞様であった(図 3).腫瘤のスタンプ塗沫標本でも細胞質は空胞状であった.嚢胞内腔側および嚢胞壁の中心部も同様で,腫瘤全体に泡沫細胞が多数浸潤していた.一部には好中球を主体とする細胞浸潤も認められた.泡沫細胞の空胞はアルシアンブルー染色および PAS 染色陰性で,ズダンV 陽性の微細な脂質顆粒が空胞内に認められる細胞が小数存在した.免疫染色において,泡沫細胞はビメンチン強陽性サイトケラチン陰性,S-100 陰性,リゾチーム陽性, HLA-DR 陽性,Iba-1 陽性であり,腫大したマクロファージ であった(図 4).ホルマリン固定後の電顕検索では,泡沫細胞の細胞質にライソゾームと思われる空胞構造はみられるが,明瞭な細胞質内層状構造物はみられなかった.また,厚切り標本において細胞質に大型の脂肪滴は認められなかった.
[診断]GM1 ガングリオシドーシスの柴犬における泡沫細胞集簇を伴う唾液腺嚢胞
[考察]一般的な犬の唾液腺嚢胞においてもマクロファージが多数浸潤するが,本症例のような脂肪芽細胞様に腫大した泡沫細胞の形態を呈することはなく,GM1 ガングリオシドーシスによるマクロファージの形態変化を伴うことが特徴的である.(三好宣彰) |