[動物]ネコ, 雑種, 雌, 3 ヶ月齢.
[臨床事項]症例は 某所において, 研究用に飼育されていたネコで, 出生時より成長不良が認められた. 2009 年 6 月 18 日から数回にわたり実施した血液化学検査より, BUN 及び creatinine の上昇が認められたため, 同年 6 月 26 日に安楽殺して病理解剖を実施し, 病性鑑定の目的で左右腎臓が弊所に送られてきた.
[剖検所見]左右の腎臓はどちらも硬結及び一部瘢痕化を呈し, 割面では皮質の菲薄化が認められた(図 1). その他の臓器には肉眼的に異常は認められなかった.
[組織所見] 皮質の表層部の瘢痕巣(図 2), 尿細管の拡張及び結晶状物の沈着, 尿細管上皮細胞の変性・壊死及び扁平化(図 3), 尿細管間質の一部において軽度から中等度の結合織の増生及びリンパ球浸潤が認められた(図 4). 尿細管に認められた結晶状物は無色透明〜好塩基性, 滑車様ないし角柱様の構造を示し(図 3), コッサ染色では褐色〜黒褐色に染色され(図 5), 偏光下では複屈折性を示した(図 6). また,アリザリンレッド S 染色では pH7.0 及び pH7.0 に 2M 酢酸処理を加えた条件下で淡赤色に染色され(図 7), pH4.2 及び pH7.0 に 0.1N 塩酸処理を加えた条件下でその染色性は消失した. これらの結果から本結晶状物はシュウ酸カルシウム (CaOx) 結晶と同定された. 糸球体ではボーマン嚢に好酸性漿液物の貯留が散見されたが,毛細血管基底膜の肥厚あるいはメサンギウムの増生は顕著ではなかった. 腎臓表面の血管において石灰沈着を伴う器質化血栓が認められた. 病変部の電顕検索では尿細管上皮内において放射状構造を示す CaOx 結晶が認められ(図 8), CaOx ghost が尿細管上皮及び尿細管間質において散見された(図 9). 多くの近位尿細管上皮でミトコンドリアの膨化及び崩壊を伴う細胞質の空胞化が認められた(図 10).
[診断]シュウ酸カルシウム (CaOx) 結晶の沈着を伴う尿細管上皮の変性・壊死及び間質性腎炎(シュウ酸塩腎症)
[考察]シュウ酸症は主に腎臓に CaOx 結晶が沈着する疾病であり,重度になると腎不全や全身性の CaOx 結晶の沈着に発展する.その発生機序により原発性と続発性に分類されるが, 本症例は室内で食餌管理下のもとで飼育されていたことや, 同腹の猫で同様の肉眼病変が観察されていたことから, 原発性のシュウ酸塩腎症が疑われた. (鈴木敬之)
[参考文献] 1) Danpure, C. J. and Rumsby, G. 2004. Molecular aetiology of primary hyperoxaluria and its implications for clinical management. Expert Rev Mol Med 6(1):1-16.
2) De, Lorenzi, D., Bernardini, M. and Pumarola, M. 2005. Primary hyperoxaluria (L-glyceric aciduria) in a cat. J Feline Med Surg 7(6):357-361.
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