[動物]ウサギ,系統不明,雄,6 歳.
[臨床事項]左側精巣の腫大を主訴に某動物病院を受診.この際,右側精巣の萎縮も確認された.左側の精巣腫瘍が疑われ,左右精巣が外科的に切除された.その他,臨床的に異常は認められなかった.
[剖検所見]左側精巣は直径 1.7 cm の球状となっていた.割面は乳白色を呈し,精巣実質は腫瘍で完全に置換されていた(図 1).右側精巣は 1.5×0.5×0.5 cm.精巣実質は高度に萎縮していた.
[組織所見]左側精巣では膠原線維によって区画された精細管様の管構造が多数認められた(図 2).管内には形態の異なる 2 つの腫瘍細胞が観察された.1 つは大型円形細胞で,明瞭な核小体を有する大型円形の核と豊富な細胞質からなっていた.核分裂像はしばしば観察された.もう 1 つは小型紡錘形細胞であり,核は長楕円形,細胞質は乏しかった.核分裂像はほとんど認められなかった.紡錘形腫瘍細胞は管内を内張りするように柵状に配列するとともに,管腔の中央付近では好酸性の球状物質(Call-Exner body)を中心にして放射状に配列する像も形成していた.管周囲の線維性間質内にはしばしば非腫瘍性の Leydig cell による小集簇が認められた.免疫染色において,大型円形細胞は Germ cell マーカーの c-kit (図 3)と PLAP に陽性となり,小型紡錘形細胞は Sertoli cell マーカーである vimentin と WT-1 (図 4)に陽性を示した.好酸性の球状物質(Call-Exner body)は PAS 反応において陽性であり,電顕では基底板が重層化し渦巻き様構造となっていた(図 5).
[診断]ウサギの精巣性腺芽腫
[考察]左側精巣はヒトの精巣腫瘍分類にある精巣性腺芽腫の所見と一致していた.鑑別診断として Mixed germ cell-sex cord-stromal tumor (MGSST) が挙げられる.MGSST では本例にみられたような多数の精細管様構造はみられず,Sertoli cell 成分の腫瘍細胞は核分裂像が多く増殖活性が高いとされている.動物の精巣性腺芽腫は,過去に犬で 2 例の報告があるのみでウサギでの報告は初めてである.
(鈴木 学)
[参考文献] 1) Reis-Filho, J. S., Ricardo, S., Gartner, F. and Schmitt, F. C. 2004. Bilateral gonadoblastomas in a dog with mixed gonadal dysgenesis. J Comp Pathol. 130:229-33.
2) Talerman, A. and Roth, L. M. 2007. Recent advances in the pathology and classification of gonadal neoplasms composed of germ cells and sex cord derivatives. Int J Gynecol Pathol. 26:313-21.
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