No.1011 イヌの卵巣部腫瘤

摂南大学


[動物]イヌ,雑種,雌,11 歳.
[臨床事項]子宮蓄膿症が疑われ,避妊手術が実施された.左卵巣部に腫瘤が確認され,左卵巣部腫瘤と左子宮の一部がホルマリン固定後送付された.
[肉眼所見]固定後の左卵巣部腫瘤は径約 4 cm 大,平滑乳白色,軟弾性,割面は白〜淡黄色充実性であった.
[組織所見]腫瘤は卵巣組織に隣接し,結合組織で区画された胞巣構造を示していた.ときに,胞巣構造内に嚢胞が形成されていた(図 1).各胞巣では,顆粒膜〜莢膜細胞に類似した小型〜中型で紡錘形〜不整形の細胞が密〜疎に増殖し,胚細胞に類似の大型類円形細胞が様々な程度に混在していた.小型〜中型の紡錘形〜不整形細胞は均一なクロマチンの類円形核と好酸性で少量〜中等量の細胞質を持ち,大型類円形細胞は散在したクロマチンと 1〜複数の明瞭な核小体を入れた核と好酸性〜淡明の広い細胞質を有していた(図 2).Call-Exner like body と石灰沈着を欠いていた.  免疫染色では,大型類円形細胞が胚細胞マーカーの PLAP 陽性,顆粒膜細胞マーカーの WT-1,ビメンチン陰性であった.小型紡錘形細胞は WT-1,ビメンチン陽性,PLAP 陰性であり,中型不整形細胞は 2 者の中間の染色態度を示した.(図 3, 4, 5)
[診断]イヌの卵巣の混合性胚細胞-性索間質腫瘍(Ovarian mixed germ cell sex cord-stromal tumor, canine)
[考察]胚細胞と性索間質細胞の混合腫瘍は gonadoblastoma と mixed germ cell sex cord stromal tumor に分類される.gonadoblastoma は Call-Exner like body 形成や石灰沈着が特徴であるのに対し,mixed germ cell-sex cords stromal tumor はそれらを欠く.本例ではgonadoblastom の特徴所見を欠き,上記と診断した.(阿野直子)
[参考文献]
1) Patnaik, A. K. and Mostofi, F. K. 1993. Vet Pathol 30: 287-295.
2) Talerman, A. and Roth, L. M. 2007. Int J Gynecol Pathol 26: 313-321.