No.1014 イヌの小脳

日本大学


[動物]イヌ,柴犬,雄,9 歳,体重 18 kg.
[臨床事項]2005 年 8 月に歩様異常を主訴に本学動物病院に来院.神経学的検査では前肢の測定過大および運動失調,後肢の姿勢反応の低下,威嚇瞬き反射の消失が認められた.MRI 検査で小脳皮質の脳溝の拡大がみられたため,臨床的に小脳変性症による小脳皮質萎縮と診断された.その後,臨床症状(ふらつき,測定過大など)の悪化が見られたため,年に 1,2 回の MRI 検査を行うが,画像上の小脳萎縮の進行は緩慢であった.血液,脳脊髄液検査で著変はなかった.2009 年 2 月に消化器症状を呈した後,突然死亡した.部分的採材の病理検査では盲腸に GIST が認められ,穿孔による腹膜炎が疑われた.
[剖検所見]小脳は顕著に萎縮(図 1,矢印)していたが,大脳に著変は認められなかった.
[組織所見]小脳灰白質の分子層は萎縮し,顆粒細胞は顕著に減少(図 2)またプルキンエ細胞の減少やかご細胞の脱落も伴っていた(図 3,4 (Bodian 染色)).分子層には軟膜から連続して線維増生(図 4 *)が認められた.抗 GFAP 抗体陽性の異型あるいは多核細胞(図 3,矢印)が散在していた.白質では脱髄が認められ,辺縁部で顕著であった.
[診断]犬の遅発性小脳変性 (Late-onset cerebellar degeneration),原因不明.
[考察]成犬で発症し,進行が緩慢な神経障害で,顕著な小脳萎縮が認められた症例であった.組織学的に小脳の反応性変化や炎症反応が乏しく,顕著な白質の脱髄と分子層や顆粒層の萎縮,プルキンエ細胞の減少,かご細胞の脱落により特徴付けられた.大脳皮質(未提出)では散在性に膠性瘢痕が存在し,また限局性に囲管性細胞浸潤が認められた.抗犬ジステンパー抗体で神経細胞およびグリア細胞の細胞質が非特異的に反応し,感染の有無は未確定であったが病変の組織学的特徴や病変部位の局在より否定した.Abiotrophy の可能性が示唆されたが確定には至らなかった.(渋谷 久)
[参考文献]
1) Speciale, J. et al. 2003. J. Am. Anim. Hosp. Assoc., 39: 459-62.
2) Steinberg, H. S. et al. 2000. J. Am. Vet. Med. Assoc., 217: 1162-5.