No.1016 ウサギの外耳道と中耳

参天製薬


[動物]ウサギ(日本白色種,Kbl:JW),雄,2 歳 8 か月齢,体重 3,771 g.
[臨床事項]本症例は 2007 年 5 月に入荷後,点眼薬の薬効試験に供されていた.2008 年 3 月左斜頚に気づき, その後徐々に斜頚の程度が顕著になり試験にも使われなくなった. 2009 年 11 月末に鑑定殺のためペントバルビタールの静脈内投与による麻酔下で, 腹大動脈から放血し安楽死させた.
[肉眼所見]左側外耳孔がオカラ状頽廃物によって閉塞しており, 左側頭骨鼓室部が腫大していた. その他の臓器に異常はなかった. ホルマリン固定後外耳道に沿って側頭骨を縦断したところ, 耳道のほぼ全長に亘って頽廃物が充満し,鼓室は拡張していた(図 1).
[組織所見]耳道内には, 剥離した表皮の角質や細胞屑などから成る好酸性頽廃物が蓄積していた(図 2). 外耳道から鼓膜まで表皮はび漫性に過形成を起こし, 偽好酸球などの炎症性細胞が浸潤していた. 鼓膜の皮膚側は部分的に基底膜が断裂し, 鼓室にむけて膨張性にコレステロール肉芽腫が形成されていた(図 3). 中耳粘膜は水腫性に肥厚していた. 鼓膜に近接した耳道では特に表皮棘細胞の過形成が目立ち(図 3), 耳道腺の肥大も顕著であった.また, 好酸性頽廃物内にはPAS反応陽性, グロコット染色陽性, グラム染色陰性, チールネルゼン染色陰性の桿菌が散在性に認められた. 走査電子顕微鏡で観察すると 5-6μm 長のフィラメント状菌で, しばしば隔壁様構造(図 4 矢印)を有していた.よって, 細菌は緑膿菌と思われた.
[診断]コレステロール肉芽腫を伴った慢性外耳炎
[考察]出題症例以外の健常ウサギにおいても, 外耳道皮膚には炎症性細胞浸潤を伴った表皮のびらんや痂皮形成がしばしば認められた. ウサギでは耳道に炎症が生じやすいものと思われ, 本症例は慢性炎症のため耳道内に頽廃物が蓄積したものと考えられる. 緑膿菌は日和見感染したものと推察される.頽廃物によって耳道の内圧が高まったため, 鼓膜表皮が破綻して中耳側に突出し肉芽腫を形成したものと思われる. フロアからは, 耳道腺の肥大や表皮棘細胞の過形成は腫瘍性の変化ではないかとの意見もあった. 本例では耳道内の炎症が強く, すべての組織変化をそれに対する反応とみて矛盾しないことから, 腫瘍については否定的に考えている. (勝田 修)