No.1017 イヌの胸背部皮膚

帯広畜産大学


[動物]イヌ,ラブラドール・レトリーバー,雌,8 歳齢.
[臨床事項]本例は 2004 年頃から様々な部位に皮膚炎を発症し,その度にステロイドの処方を受けていた.2008 年 10 月 15 日,頸背部から胸背部の膿皮症様皮膚病変を主訴に某動物病院を受診した.3 ヶ月以上にわたりステロイドおよび抗生剤による治療が続けられたが,病変は尾根部にまで拡大し,掻痒症状も高度となった.その後も治療による改善はみられず,2009 年 2 月 4 日に頸背部から尾根部の病変部皮膚の切除手術が行われた.
[肉眼所見]切除部皮膚は全域にわたって高度に肥厚しており,硬度を増していた.肥厚した真皮内には表皮自壊部と連続し,血様膿汁を容れた嚢胞が形成されていた.同嚢胞内には被毛も確認された.また,真皮内には直径 2〜3 mm 大の白色骨様結節が多数存在していた(図 1).
[組織所見]高度に肥厚した真皮の中層から深層にかけて,不整な骨組織が多巣性に形成されていた(図 2).皮膚付属器は主に骨形成層下に存在しており,毛包の拡張,崩壊,およびそれに起因する高度の炎症が認められた(図 3).炎症性細胞は好中球,マクロファージ,形質細胞等が主体であり,結合組織の増生も認められた.骨組織辺縁部には骨芽細胞様の多角形細胞が配列しており(図 4),一部では破骨細胞様の多核巨細胞も観察された.骨組織内腔に脂肪組織が存在する部もみられた.また,炎症性細胞浸潤を伴う膠原線維への石灰沈着が一部で認められ(図 5),骨組織と連続するものも観察された.
[診断]慢性毛包炎・毛包周囲炎を伴う皮膚骨腫
[考察]本例の臨床および病理像は,医原性の高グルココルチコイド血症に伴って稀に発症するとされる皮膚骨腫と一致するものであった.皮膚骨腫は非腫瘍性病変であり,真皮における多巣性の骨形成を特徴とし,膠原線維の石灰沈着,すなわち皮膚石灰沈着症を伴うことが多いとされる.骨形成の機序は不明であるが,線維芽細胞などの間葉系細胞の骨化生により生じるものと考えられている.本例では長期にわたるステロイドの投与に加え,慢性皮膚炎および掻痒感に伴う自傷行為が持続的な刺激要因として関与した結果,間葉系細胞の骨化生が起こり,多巣性の骨形成に至ったものと推察された.(小山憲司・古林与志安)
[参考文献]
Gross, T. L., Ihrke, P. J., Walder, E. J. and Affolter, V. K. 2005. Skin Diseases of the Dog and Cat, Clinical and Histopathologic Diagnosis, 2nd ed, Blackwell Science Ltd, Oxford.