No.1018 ネコの皮膚腫瘤

日本獣医生命科学大学


[動物]ネコ,日本猫,避妊雌,1 8 歳.
[臨床事項]右頬に約 2 cm 大の痂皮形成を伴う腫瘤が認められた.皮下組織との固着はなし.血液生化学検査では異常なし.他に既往歴なし.
[肉眼所見]大きさ 2.1×1.8×0.6 cm の円盤状の腫瘤で,表面に潰瘍を伴い,やや硬結感を有する.
[組織所見]腫瘍組織は非被包性で,真皮に限局していた.数十個の腫瘍細胞からなる充実性ないし偽管状の小細胞集塊が多数認められ,集塊は蜂の巣状の間質の空隙に浮遊するかのように存在していた(図 1).腫瘍細胞は円柱状ないし不整形で,好酸性細胞質と類円形核を有し,核分裂像も散見された(図 2).腫瘍巣辺縁では,腫瘍細胞の皮筋への浸潤とリンパ管侵襲を認めた.免疫染色では,cytokeratin AE1/AE3,CAM 5.2 (図 3),CEA に陽性を示した.特に CEA は,正常アポクリン腺では内腔を縁取るように染まるのに対し,腫瘍では細胞塊の外縁が染まる傾向にあった(図 4).一方,vimentin,cytokeratin 14,α-SMA,p63,S-100 等には陰性を示した.超微形態学的に,腫瘍細胞塊の外縁に微絨毛が観察された(図 5,挿入図:一部拡大).
[診断]微小乳頭状増殖パターンを示すアポクリン腺癌 (Apocrine carcinoma with micropapillary growth pattern)
[考察]微小乳頭状増殖パターンを示す癌は,ヒトの乳腺,肺,膀胱,腸管等の臓器で報告され,予後の悪い組織型として注目されている.ヒトの乳腺 WHO 分類では “Invasive micropapillary carcinoma” として,日本の乳癌取扱い規約では“浸潤性微小乳頭癌”として,独立した組織型として扱われている.ネコやイヌの乳腺においても報告があり,新しいイヌの乳腺腫瘍分類では “Carcinoma−micropapillary invasive” の項目が設けられた.浸潤性微小乳頭状増殖の特徴は,腫瘍細胞が腺腔面を間質側に向けた (inside-out pattern), 中心に結合織を伴わない小集塊を形成することである.腫瘍細胞は間質と接着していないため,ホルマリン固定組織では収縮により腫瘍細胞塊と間質の間に特徴的な空隙が形成される.この増殖パターンの形成過程は解明されていないが,腫瘍細胞が間質との接着機能を失った結果,浸潤増殖していく過程で,腺腔面を外側に向けて塊を形成すると推察される.本症例は剖検が行われなかったが,臨床検査では他臓器に腫瘍が確認されていないため皮膚原発であると思われ,免疫染色結果からアポクリン腺由来と考えられる.(吉村久志)
[参考文献]
1) Tavassoli, F. A. and Devilee, P. eds. 2003. WHO Classification, Tumours of the Breast and Female Genital Organs, IARC Press, Lyon.
2) 日本乳癌学会/編 2008年 臨床・病理 乳癌取扱い規約 第16版
3) Goldschmidt, M., Pena, L., Rasotto, R. and Zappulli, V. 2011. Classification and grading of canine mammary tumors. Vet. Pathol. 48:117-131.
4) Machida, Y., Yoshimura, H., Nakahira, R., Michishita, M., Ohkusu-Tsukada, K. and Takahashi, K. 2011. Cutaneous invasive micropapillary carcinoma of probable apocrine sweat gland origin in a cat. J. Vet. Diagn. Invest. (in press)