No.999 モルモットの肺

大阪府立大学


[動物]モルモット,雄,4 歳.
[臨床事項]動物園で飼育.体重減少が認められ,ビタミン剤が投与されていたが,削痩が進行し,約 2 ヶ月後に死亡した.
[剖検所見]肺全葉にわたって直径 5 mm に至る小結 節が多数認められた.腎臓は両側性に腫大し,表面は粗造であった.胃および結腸の漿膜面に石灰沈着が認められた.細菌検査により,肺から Acinetobacter baumannii,Proteus mirabilis,Streptococcus viridans Group が検出された.
[組織所見]肺の多発性結節は,主にクロマチンの乏しい類円形核と弱好酸性淡明な細胞質を有する間葉系細胞で構成され(図 1, 2),比較的大型の結節では単層線毛円柱上皮で内張りされる腺腔構造が多数観察された(図 2).結節周囲には多くのリンパ球浸潤が認められた.肺胞壁において,リンパ球・形質細胞の集簇および結節部と同様の間葉系細胞から成る小病巣が散見された(図 3).この間葉系細胞は,vimentin(図 4),PCNA(図 5)および Ki-67 に陽性,α-SMA および desmin に陰性を示し,アザン染色で軽度の膠原線維産生が認められた.大型結節内の上皮細胞は,一部が PCNA に弱陽性,Ki-67 は陰性であった.結節周囲および肺胞壁の小病巣では,CD3 陽性 T 細胞と CD20 陽性 B 細胞が混在していた.細気管支と気管支の上皮細胞および平滑筋に石灰沈着が認められた.細菌染色および PAS 染色を行ったが,肺に病原体は認められなかった.他臓器では,重度の慢性腎症,胃の筋層および腸の粘膜から筋層において,重篤な石灰沈着が観察された.
[診断]肺における線維芽細胞の多結節性増生
[考察]肺の結節病変は線維芽細胞の増殖を主体とし,増生細胞には異型性が認められず,上皮細胞増殖や炎症細胞浸潤を伴っていることから,非腫瘍性病変と考えられた.しかしながら,病因を特定できず,本症例と一致する肺疾患の報告が見当たらないことから,上記の診断名とした.結節内の上皮細胞は形態学的に細気管支上皮であり,多数の腺腔が認められることから,肺胞上皮の化生による可能性が考えられた.肺や消化管にみられた石灰沈着は,中高齢のモルモットに好発する転移性石灰沈着症と判断した(井澤武史・桑村 充)
[参考文献]
1) Caswell, J. L. and Williams, K. J. 2007. Specific noninfectious interstitial pneumonitis. pp. 568-575. In: Pathology of Domestic Animals, 5th ed. (Maxie, M. G. ed), Saunders, Philadelphia.
2) Percy, D. H. and Barthold, S. W. 2007. The guinea pig. Nutritional, metabolic, and other disorders. pp. 238-245. In: Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits, 3rd ed. (Percy, D. H. and Barthold, S. W. eds), Wiley-Blackwell, Iowa.